【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

大和の故郷と謎の人物

「えー? この川のおはなし?」

「お前らの目には見えてないかもしれないけどな、この川光ってんだぞ? こう、滝が逆流するようなイメージで……」

 見た目にして十二~三歳の蒼牙は両腕をいっぱいに広げながらあれこれリアクションを交えて説明するも、力なき者へ見えないものを説明するのは容易ではなかった。

「んー、あたしわかんないー。おにいちゃんに聞いてみる!」

 そう言って立ち上がり、衣の裾を払った幼い少女。彼女は先ほど大和と顔を合わせていた兄妹の片割れだった。

「おにいちゃーん! やまとさまのおともだちだってー!」

 黒髪の少女は走り出したかと思うと、傍で魚釣りをしていた少年を連れ添って戻ってきた。

「あ! さっき大和様と一緒にいた蒼髪の子だ!」

「……子供じゃねぇって。で、この川について大和からなんか聞いてねーか?」

「大和様のお話、おれ大好き! うん、聞いたことあるよ! 
ずっと昔、ここで大火事があったときに川の水を操れるひとに助けてもらったんだって言ってた! そのとき町の向こう側にあった森まで焼けちゃったらしいけど、川の水がキラキラ―って降り注いで森が元通りになったんだってさ!!」

 大和の話が大好きというより、大和のことが大好きらしい少年は瞳を輝かせながら興奮気味に教えてくれる。
 話の内容からして荒廃する以前の話であることは間違いない。少年が指さした"森があった方向"には枯れた木々と痩せた大地がどこまでも広がっている。

「…………」

(……川の水を操って民を助け、森を復活させた……?)

「それってこのあたりのやつがやったのか?」

「ううん、たぶん違うよ。和の国の人だったみたいだけど、その日初めて会ったって言ってた! 綺麗なひとだったんだって!」

「…………」

(……仙水じゃないのか? あいつもたしか水に関係して……でも仙水は和の国の人間じゃねぇし……)

「なぁ、そのあとどうなったか聞いたか? その"綺麗なひと"が大和とどうなったとか……」

「わかんない。大和様がお若いときの話だって言ってたし……あ、でも助けてくれたひとは九条様のお知り合いだったって言ってたような……」

「……九条の知り合い?」

(もし九条が面倒見てたやつだったら初代王の子孫だって可能性もありえる……頼んだぜおっさん!!)


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