【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

救世主への望み

「そこのお若いの。大和様のお仲間の……蒼牙様じゃったかな?」

 曲がった腰のわりに骨太そうな壮年の男が杖をつきながらのんびりとした足取りで姿を見せると、蒼牙と並んで話をしていた少年が笑顔で応えた。

「あ! じいちゃんだ!」
 
「ん? あぁ、そうだけど……お前のじいちゃんか?」

「うん! いまじゃ一番の年長者だから僕たちがわからないことも教えてくれるかもしれないよ!」

 年老いた男は手頃な岩へと腰を下ろすと深々と頭をさげた。

「いつも大和様にはお目を掛けていただいて……なんとお礼を申し上げたらよいか……」

「礼には及ばないぜ。
それより和の国っていっても結構な広さだろ? なんであいつはここにばっか来るんだ?」

 清流の結界が気になると言えど、こうも通い詰めるには何らかの理由があるはずだと蒼牙は考えていた。
 
「蒼牙様はご存知ないのですか? 大和様はここの御出身じゃからですわい!」

「へぇ……あんまあいつ自分のこと話そうとしねーからさ。……そうなのか……」

「……っあ、じゃあさ! "雷神"が生まれたのもこのあたりだったりするのか?」

「おっしゃる通りです。"雷神"のみならず、和の国では八百万の神が存在すると信じられておりますので、各地へ赴けば色々な社(やしろ)を目にすることができましょう」

「ふーん? 例えばなんだ?」

「それはもう、火や水、風を司る神……太陽神などは砂の国で信仰さえれている神と聞きますが、わしらの国では大自然の神から商いの神など様々な神が信仰されております」

「……火や水、風を司る神……?」

(おっさんの世界でそういう王……いないのか?)


"万能な癒しの力と結界を得意とし、強大な魔法を操る御方だ"


(……魔法ってのがはっきりわかんねーけど、悠久の王に該当するってことねぇのかな……。次に扉をくぐるのがキュリオってやつだったらいいのにな)

 もしかしたら、この世界を救ってくれるのは<悠久の王>かもしれない……という淡い期待が蒼牙の中で次第に大きくなっていく。

 しかし、もうひとつの世界をよく知らない彼は重要な人物を忘れている。
 キュリオらの世界には、それらを束ねる別の王がいることを――。

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