【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「…………」

 やさしく撫でられた頬からじんわりと伝わってくるキュリオのぬくもり。これ以上にない深い愛の言葉と腕に抱かれながらも赤子の胸は悲しみにあふれている。

「アオイ?」

 不安げに揺れる赤子の瞳を覗き込む青い瞳。まるで心を見透かされているような気がしたアオイの視線は自然と下がる。

「……んぅ、……」

 まるでキュリオの言葉に不満があるように声をもらしたアオイは、自分とキュリオの間に壁をつくるように輝く羽を押し当てる。

「……拒絶しないでおくれ。私のプリンセス」

 キュリオの指先に弾かれた翼は光の粒子と消えて――。
 隔てるものが何もなくなったアオイの頬に柔らかな唇が押し当てられる。

「…………」
 
「……なにか言ってくれないか? ふたりとも」

 背後で視線を感じたキュリオは、アオイとの蜜なる時間が終わってしまうことに溜息をつきそうになる。

「あー……申し訳ございませんキュリオ様っ! お邪魔でしたら……っ……」

 バルコニーへと続く扉の影からこちらを伺っていたらしい男の焦った声と――

「キュリオ、いまのなに?」

 言葉に強弱のない透き通った声。
 彼が目の前の行為の意味をさらりと問うと、もうひとりの男がほんのりと頬を染めながら気まずそうに息を呑んだ。

「……っ! ダルド様、それはっ……」

「……肌の触れ合いによって愛情を伝え合うのは父と子もまた同じ。
口付けはその愛情表現のもっとも尊いところにあると私は思っている」

 穏やかな笑みを湛えたキュリオがアオイを胸に抱いてこちらに歩いてくる。
 今朝の一件から難しい顔をしていたキュリオに笑顔が戻ったのは、愛しい姫君との濃密な時間のお陰だろうとダルド以外の誰もが思っている。これ以上、彼を悩ませる問題が起きぬよう、穏やかな一日になれば……と皆の願いも空しく。純粋な人型聖獣の言葉がまたも銀髪の王を悩ませてしまう。

「口付けは親子以外ではいけないこと? 僕もアオイ姫にしたい」

「…………」


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