【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 ――そして空が黄昏に染まる時分。白銀の甲冑に身を包んだ<革命の王>が再びキュリオへ謁見を願い出ていた。

「申し訳なかった。キュリオ殿」

 中庭を歩きながらキュリオの後方で深く頭を下げたエデンが立ち止まった。
 キュリオの力を宿した王の羽が異様なかたちで帰還したであろうことはエデンの想像にも容易く、もはや雷の国で何かが起きていると誤魔化すには無理がある。かつてない光景を目の当たりにしたキュリオは、まるで立ち入りを拒絶するような結界にも似た力に弾かれた可能性が高いと推測していたため、エデンが今更言い訳をしたところで憶測が覆ることはない。

「君が抱えている問題が只事ではないことは充分わかった。
“内容は話せない"……その気持ちに変わりはないのかい?」

 キュリオの力を上回るのは千年王である<夢幻の王>エクシスだけであるため、彼に討たれない限り羽が異様な動きをすることはあり得ない。しかし、当の本人は他者に悉く無関心であり、エデンの知人を苦しめるということに一番遠い人物といえる。
 よって、エクシスとキュリオの間、もしくはそれ以上の力を持つ者が存在しているということになる。

「……ああ」

 上位王であるキュリオの影を踏むのを躊躇っているのか、エデンは視線を下げたまま距離を保って頷く。

「この結果は君の想定の範囲内かい?」

 キュリオは苦悶の表情を浮かべるどころかエデンの心情に少なからず理解を示しているように見えた。
 救済を求められているにも関わらず、手助けを拒まれてしまってはどうすることもできない。だが、救済を求めている当人の意志とは無関係な力が働いているとしたら……と、別の視点から考えているのだ。

「……正直言うと想定の範囲内だった。
だが実際この目で確かめるまでは、まだ希望はある……と、思いたかったというのが本心でな……」

 歯切れの悪い物言いに、エデンの落胆ぶりを感じ取ったキュリオは同調するように浅い息を漏らす。

「…………」

(私の羽が通ることができないとすれば、恐らく私自身も同じ……。結界と思しきものを突破しなくては浄化することもできない)

「もしや君らにとっての“蜘蛛”は……その異様な結界のことか?」

「……蜘蛛? それはどういう意味だ?」

 唐突なキュリオの質問に思い当たる節のないエデンは首を捻る。

「蜘蛛の巣に囚われた蝶の話さ。放っておけば蝶は餌食になってしまうだろう?」

「……そうだな。いや……、結界があるから汚染されているわけではないんだ。むしろ蜘蛛は俺のほうかもしれん……」

「……なに?」



< 40 / 168 >

この作品をシェア

pagetop