【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
愛しい鬼
バスローブを纏ったキュリオに抱かれているのは、上気した肌を柔らかなタオルに包まれて父に身をゆだねるアオイだった。
「キュリオ様、姫様をお預かりいたします」
室内で待機していた侍女たちが待ちに待った宝物を受け取るようにアオイへと手を伸ばす。
「……あぁ、頼もうか」
アオイを手放すことに一瞬ためらいを見せたキュリオ。
キュリオの手から侍女の手へと渡ったアオイはされるがままに大人しくしているが、キュリオの視線はなかなか愛娘から離れていこうとしない。誰の手を借りずともアオイの世話はキュリオ自らが買って出るため侍女や女官はあくまでサポート程度の役目を与えられているに過ぎなかったが、その一時(いっとき)離れるのさえ寂しく思えてしまうほどにアオイへの愛は日を増して大きく膨れ上がっている。
だが、こうしてまで侍女の手を借りるのもアオイが成長して立派な女性(レディ)となったとき、キュリオが立ち入ることのできない領域が必ず出てくるであろうことを見越してのことだ。そして、いきなり侍女をつけることでアオイが混乱しないようにと、幼子のうちから慣れさせるという目的もある。
しかし、そんなキュリオの決意もアオイにはどこ吹く風で。
「きゃははっ!」
侍女の手から滑り降りた彼女は、生まれたままの姿で室内をペタペタと走り始めた。
「……っ! お、お待ちください姫様!」
たちまちキュリオの寝室が鬼ごっこの舞台と化してしまったわけだが、その愛らしい天使の行先はキュリオの足元だった。
「んぅー!」
「ふふっ、私が捕らえられてしまったようだな。お前が鬼なら喜んで捕まろう」
足へと纏わりついて離れようとしない裸体の天使を両腕で抱き上げる。
「衣から解放されて気持ちが良いのかもしれないな。一休みしてから食事にするとしよう」
キュリオから退出を命じられた侍女らは残念そうに部屋をあとにする。
「風の魔法を使うのは久しぶりだな」
おもむろにバスローブを脱ぎ捨てたキュリオの周りを温かな風が包んで、ふたりの髪に残る水気を瞬く間に奪い去っていく。
「きゃあっ」
キュリオの胸元に頭突きをするように顔を摺り寄せてくるアオイが愛おしく、キュリオは何度も彼女の額へ、頬へと口づけを繰り返す。すると、ふとした拍子にアオイが顔を上げて――
「……!」
一瞬の出来事だった。
水蜜桃の花のように愛らしく、あどけない唇がキュリオの唇に重なって離れた。
「おとー」
口角を上げて甘い笑みを浮かべたアオイは、ようやくキュリオの求めるものを差し出してくれた気がした――。
「キュリオ様、姫様をお預かりいたします」
室内で待機していた侍女たちが待ちに待った宝物を受け取るようにアオイへと手を伸ばす。
「……あぁ、頼もうか」
アオイを手放すことに一瞬ためらいを見せたキュリオ。
キュリオの手から侍女の手へと渡ったアオイはされるがままに大人しくしているが、キュリオの視線はなかなか愛娘から離れていこうとしない。誰の手を借りずともアオイの世話はキュリオ自らが買って出るため侍女や女官はあくまでサポート程度の役目を与えられているに過ぎなかったが、その一時(いっとき)離れるのさえ寂しく思えてしまうほどにアオイへの愛は日を増して大きく膨れ上がっている。
だが、こうしてまで侍女の手を借りるのもアオイが成長して立派な女性(レディ)となったとき、キュリオが立ち入ることのできない領域が必ず出てくるであろうことを見越してのことだ。そして、いきなり侍女をつけることでアオイが混乱しないようにと、幼子のうちから慣れさせるという目的もある。
しかし、そんなキュリオの決意もアオイにはどこ吹く風で。
「きゃははっ!」
侍女の手から滑り降りた彼女は、生まれたままの姿で室内をペタペタと走り始めた。
「……っ! お、お待ちください姫様!」
たちまちキュリオの寝室が鬼ごっこの舞台と化してしまったわけだが、その愛らしい天使の行先はキュリオの足元だった。
「んぅー!」
「ふふっ、私が捕らえられてしまったようだな。お前が鬼なら喜んで捕まろう」
足へと纏わりついて離れようとしない裸体の天使を両腕で抱き上げる。
「衣から解放されて気持ちが良いのかもしれないな。一休みしてから食事にするとしよう」
キュリオから退出を命じられた侍女らは残念そうに部屋をあとにする。
「風の魔法を使うのは久しぶりだな」
おもむろにバスローブを脱ぎ捨てたキュリオの周りを温かな風が包んで、ふたりの髪に残る水気を瞬く間に奪い去っていく。
「きゃあっ」
キュリオの胸元に頭突きをするように顔を摺り寄せてくるアオイが愛おしく、キュリオは何度も彼女の額へ、頬へと口づけを繰り返す。すると、ふとした拍子にアオイが顔を上げて――
「……!」
一瞬の出来事だった。
水蜜桃の花のように愛らしく、あどけない唇がキュリオの唇に重なって離れた。
「おとー」
口角を上げて甘い笑みを浮かべたアオイは、ようやくキュリオの求めるものを差し出してくれた気がした――。