【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

王が瞳にうつすもの

 湯浴みを済ませ、早目の夕食を終えた三人は日が暮れる前に城を出た。
 さほど昼寝をしていないアオイが興奮気味に声をあげているのも、普段と違う雰囲気を察したためだろう。いつものこの時間であれば王宮の敷地を出ることはほとんどなく、出ても庭園を散策する程度のものだからだ。

 馬を走らせ、銀狐と化したダルドの後ろを行くこと小一時間。
 徐々に月の光が辺りを照らし始めた頃、聖域のなかを歩いていると一際巨大な樹木が姿を現した。
 
「これは素晴らしい……」

 おそらくはキュリオよりも長く生きているであろう威厳に満ち溢れた風貌のそれは、多くの命を見守ってきた神木のように力強い根を隆々と張り巡らせて鎮座している。
 キュリオはアオイを左腕に抱くと、右手でその見事な樹木の木肌に触れた。
 脈々と感じる命の息吹。まるで語り掛けてくるようなそのエネルギーは、悠久の国に根をおろした大自然らしく大らかで優しいものだった。

「貴方の幹を傷つけたりはしないと約束しよう」

 キュリオは断りを入れるように樹木へ言葉を掛けると、人型となって静かに頷いたダルドの手を取って翼を翻す。
 なるべく太い幹を選んで降り立つと、それだけで聖獣の森が見渡せそうなほどに高い場所にいることに気づいた。
 ところどころで光る小さな塊に目を細めると、それは精霊の国から来た光の精霊であることがわかる。

「流れ星だ」

 わずかに空の青さを下部に残した透き通る闇に一筋の光が流れた方角をダルドが指さす。

「美しいな」

「…………」

 キュリオの腕の中でその光景をジッと見つめているアオイは何を想っているのだろう?
 
「キュリオはあまり空をみない?」

「…………」

 そう聞かれて気づく。
 悠久の地を見下ろすことはあっても、空を見ていることは極端に少ない。
 
「そうだね。私が守るべきものは地にあるせいだろうな」

 心が向く方向へと自然に視線は流れる。
 空に輝く月や日、星々に興味がないわけではないが、それだけ王の心が民や動植物に向いているということの現れだ。


 そして、似たような光景を間近で見ていた者が他にもいる。

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