【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
心穏やかな時間を過ごした三人は城へと戻ってくると、挨拶を交わしそれぞれの部屋へと戻ってきた。
アオイとの別れが名残惜しそうなダルドは、その小さな手を握りしめると寂しそうに「またあした」と眉を下げた。
「…………」
そのような光景を見るたびに、アオイがもし他人の子であったらどうしていただろうと考えてしまう。
今更手放すつもりは毛頭ないキュリオが応じるわけがないが、ごく普通の民の家に生まれたアオイをキュリオが見つけた場合はどうなっていただろう?
現に彼女には、彼女を生んだ母親がおり父親がどこかにいるはずなのだ。
アオイに会いたいばかりに、毎夜民の家の扉を叩いたのだろうか? 物心がついた彼女に「いっそのこと城に住まわないか?」と愛を囁き花を届けていたかもしれない。
共にあることが当たり前すぎて離れることなど考えられないが、ダルドのように時間が来れば別れなくてはいけないというのがキュリオには耐えられない。
しかし、血の繋がった実の親子であった場合……
娘が美しく花開く頃を心待ちにしながらも、どこぞの男に連れ去られてしまう日を父親は心はしょうがないことだと自分に言い聞かせながらも怯えているものだ。
(……血の繋がらぬ親子でよかったと思えてしまうのは、アオイをこの先手放す理由がないからか)
無言のまま階段を上っていくキュリオの顔を見上げるアオイ。問いかけるような視線に気づいたキュリオが笑みを向けると、目も唇も丸く綻んだ彼女は安心したように行く先を見つめる。
自室へと戻ってきたふたりはいつもよりも身近に感じた美しい夜にもう一度会いたくてバルコニーへと出ていく。
――空に輝く数多の光を創ったのが神だとして、その輝きを保つのはそれぞれの王だ。
元はひとつの地の上にあったこの四か国が分かれた理由は憶測するに容易いが、各国から見る月の距離感がだいぶ違うことから違う星にいる可能性が高い。
ましてや日の昇らぬヴァンパイアの国では巨大な月が沈むことなく暗黒の地を照らし続けている。理を覆すような天体の動きにどう抗っているのかを誰も知らないのだ。
さらに不可解なのは日も月も昇らぬ≺冥王>が治める死の国だ。代々変わり者の王が多いことで知られる≺冥王>の能力についても謎が多い。
人間を糧として生きてきたヴァンパイアと悠久が袂を別つ理由はいくらでもある。
さらに他となれ合うことを善しとしない精霊の国が離れることもわかる。
闘いで己の強さを誇示していた超人揃いの雷の国と温和な悠久の国が離れる理由も納得できる。
では死の国は――?
魂を狩るのが≺冥王>の能力だとしたら、それでは殺戮を繰り返してきたヴァンパイアとどう違うのだろう?
民を苦しみや死から遠ざけ、生命を育む≺悠久の王>とは真逆の存在である≺冥王>が不仲というわけではないが、どの時代でも【陰と陽】が親しかった記録は残っていない。
五大国の傾向として精霊の国と悠久の国、ヴァンパイアの国と死の国の仲が良く、雷の国は中立であることが多い。
従って、現在第一位と第二位の国が良好な関係であるこの時代は他の国がいくら牙を剥こうとも勝敗は見えており、ましてや≺千年王>であるエクシスがいる限り彼に太刀打ちできる人物は皆無と言える。
もしヴァンパイアから≺千年王>が出ていたらこの世界はまた混沌と化してしまうのだろうか?
そのときの≺悠久の王>がやつらに対抗できる力を持っていることを願わずにいられない。
「私はこの国の未来も考えねばならないが、どうやら今がとても大切らしい」
胸の中のぬくもりを両手で掲げると、彼女のキラキラした瞳が自分を見つめて嬉しそうに細められた。
「きゃあっ」
こちらに手を伸ばしながら楽しそうに笑うアオイを再び抱き寄せると、互いの頬をすり合わせてまた、愛しさに笑みがこぼれる。
「お前が生まれるいつの時代も私が護ると約束しよう」
キュリオの優しい声色はいつもアオイを安心させてくれる。
漠然とした不安が拭えないときがある、この赤子の心境を知る者はここにはいない。
その不安が未来へのものなか、彼女が彼女として生まれる前のものなのかはわからない。
「…………」
しかし彼女はわかっている。
この不安がただごとではないこと。そして――
(……このままではいけない。だけど、いまは……)
大きな愛に包まれて、かつてない安堵感に身をゆだねたアオイがキュリオの衣を強く握ると、優しい腕がその体を強く抱きしめてくれる。
バルコニーの一角にある長椅子へと腰をおろしたキュリオはアオイを胸元へ抱え直して空を仰ぐ。
「不思議なものだな……この星のどこかでこちらを眺めている者がいるかもしれないというのは」
サラサラと流れる銀の髪がアオイの頬を撫で、神秘的な世界へと誘うように輝いている。
(星の数だけ歴史があり、そこに住む者たちの物語がある)
小さな瞬きの中に数多の命が存在していることは知識として知っているが、中にはすでに滅亡してしまった死の星があることも理解している。
(こうして目にしている輝きが遥か昔の栄光であるとはな……)
幾ら速いとわれる光とて、途方もない彼方にある星々の輝きを人の目に届けるまで気の遠くなる年月を要する。
すなわち、キュリオらが目にしているこの輝きは、とうの昔に失われているものも中には存在しているということだ。大小様々な光の中に蒼白く輝く星や無気味な紅色に光るものがある。
(この見上げる星々に助けを求められたとして……これほど離れていては私の力は届くまい)
憂いを秘めた瞳で夜空を見つめるキュリオだったが、ふとあることに気づく。
上も下もわからない謎の空間。恐らくは別々の星にいるであろう五大国をつなぐ不可解な闇。
「我らの国をつなぐあの異空間はもしや……」
あの空間が他の星々と繋がっている可能性は十分にある。
そう考えるといつしか他の星の生命と出会える可能性を考えたが、そんな出来事は聞いたことがない。この五大国が特別なのか、はたまたあの空間の遠い場所で同じように行き来している者たちが存在しているのか?
"――キュリオ、その出会いが必ずしも良いものとは限らない。もしも侵略者であったなら私たちは戦うのみだ"
「……!」
ハッとして目を見開いたキュリオは思わず背もたれから体を起こし辺りを見回す。
「?」
キュリオの動揺が伝わったのか、アオイは目を丸くしてこちらの顔を覗き込んでいる。
「…………」
「どうしたものかな。最近よくセシエル様を感じるときがある。幸せにうつつを抜かしている私への叱咤なのだろな……」
(他を受け入れることは争いを意味する。互いの手を取り合う世界など存在はしないだろう)
『私たちはこの国を第一に考え、他の国がどうなろうと心を砕いてはならない。それが一国を治める王の責務だ』
――迷うことのないセシエルの眼光は揺らぎのない強い意志を感じる。
月夜の晩に眼下の悠久の大地を見つめる彼の横顔を見上げた幼いキュリオは静かに頷いた。
纏う銀色の光が、美しいセシエルの容姿をより一層際立たせ、この神々しい輝きを纏う彼こそが王のさらに上……≺千年王>の領域へと上り詰めていく王であるのだとキュリオは確信に似たものを感じていた――。
<先代>セシエル王の時代で争いが起きたという話は聞いたことがない。
しかし、あの人当たりのよい優しい顔の下には氷のような冷酷さが秘められていることをキュリオは知っていたため、恐れをなした他国の王が手を出してこなかった可能性もある。
この国のためならば躊躇うことなく剣を抜ける人物。<慈悲の王>というその名を戴きに掲げながらも、炎と氷のような激情を合わせもった人物だった。
(他国の王の追随を許さなかったセシエル様の御力を以てすれば、悠久に害をなす王を黙らせることなど造作もなかっただろう。並外れた強さは無益な争いを無くし、桁違いな強さは恐怖さえも与える)
それこそが王の存在理由に繋がるのだとキュリオは考えている。
実力差のほとんどない民同志が争えば収拾がつかなくなるのは目に見えている。恐ろしいのはその中で財を成す者が居れば貧困の民は弱者となってしまい、強者が弱者を支配する世界があっという間にできてしまうということだ。
それを治める絶対的な存在が必要なのだと。
さらに似たような事例のある国がこの五大国にも存在している。
かの国は唯一自国内で争いが起き、それがきっかけで初代王が誕生したことで有名な雷の国だ。
猛者たちを遥かに超越した力によって国を統制し、争いを終わらせた成功例でもあるが、それは敵国から民を護るために誕生した悠久の王とは違うため、初代王の誕生の仕方はひとつではないことがわかる。
(他国から民を護れず、自国の争いをも鎮めることができなかった王がいたとしたら……その国は滅びるのだろうか……)
国の最期があるとしたら、どんな終末が待ち受けているのだろう?
次代の王も誕生せず、やり直しが許されないとしたら……どこかで審判(ジャッジ)を下している者がいるということかもしれない。
「我らの神具を考えれば……やはり神という存在がいるのだろうな」
それを"神具"と呼ぶのはどの国でも同じだが、最初に名付けた王が実際神に会ったか、それとも証明できないこの武器の存在を神の業としてそう呼んだのかもわからない。
だからこそ、歴代の王たちのなかでは神の存在について調べていた形跡がいくつもある。
初代王が誕生したタイミングから考えて、民が壊滅的状況に陥るなどの幾つかの条件をクリアすれば王が誕生するのか、ある一定の力量を超えた者が王となるかは憶測の領域を越えていない。
前者に置いて当て嵌まるのは、恐らく悠久の国と雷の国であり、後者に関してはすべての国に当て嵌まると言えよう。
さらに……現王の力の衰えを見計らって次代の王が誕生するよう、最初から神に操られているとしたら――?
「…………」
その答えを知っているのは神と≺初代王>だけかもしれない。
≺初代王>と面識のある人物が生存しているわけがないこの世界。キュリオは複雑な想いを胸に抱きながら先程よりもわずかに傾いた月をジッと見据える。
「……すべては神の意志ということか……」
アオイとの別れが名残惜しそうなダルドは、その小さな手を握りしめると寂しそうに「またあした」と眉を下げた。
「…………」
そのような光景を見るたびに、アオイがもし他人の子であったらどうしていただろうと考えてしまう。
今更手放すつもりは毛頭ないキュリオが応じるわけがないが、ごく普通の民の家に生まれたアオイをキュリオが見つけた場合はどうなっていただろう?
現に彼女には、彼女を生んだ母親がおり父親がどこかにいるはずなのだ。
アオイに会いたいばかりに、毎夜民の家の扉を叩いたのだろうか? 物心がついた彼女に「いっそのこと城に住まわないか?」と愛を囁き花を届けていたかもしれない。
共にあることが当たり前すぎて離れることなど考えられないが、ダルドのように時間が来れば別れなくてはいけないというのがキュリオには耐えられない。
しかし、血の繋がった実の親子であった場合……
娘が美しく花開く頃を心待ちにしながらも、どこぞの男に連れ去られてしまう日を父親は心はしょうがないことだと自分に言い聞かせながらも怯えているものだ。
(……血の繋がらぬ親子でよかったと思えてしまうのは、アオイをこの先手放す理由がないからか)
無言のまま階段を上っていくキュリオの顔を見上げるアオイ。問いかけるような視線に気づいたキュリオが笑みを向けると、目も唇も丸く綻んだ彼女は安心したように行く先を見つめる。
自室へと戻ってきたふたりはいつもよりも身近に感じた美しい夜にもう一度会いたくてバルコニーへと出ていく。
――空に輝く数多の光を創ったのが神だとして、その輝きを保つのはそれぞれの王だ。
元はひとつの地の上にあったこの四か国が分かれた理由は憶測するに容易いが、各国から見る月の距離感がだいぶ違うことから違う星にいる可能性が高い。
ましてや日の昇らぬヴァンパイアの国では巨大な月が沈むことなく暗黒の地を照らし続けている。理を覆すような天体の動きにどう抗っているのかを誰も知らないのだ。
さらに不可解なのは日も月も昇らぬ≺冥王>が治める死の国だ。代々変わり者の王が多いことで知られる≺冥王>の能力についても謎が多い。
人間を糧として生きてきたヴァンパイアと悠久が袂を別つ理由はいくらでもある。
さらに他となれ合うことを善しとしない精霊の国が離れることもわかる。
闘いで己の強さを誇示していた超人揃いの雷の国と温和な悠久の国が離れる理由も納得できる。
では死の国は――?
魂を狩るのが≺冥王>の能力だとしたら、それでは殺戮を繰り返してきたヴァンパイアとどう違うのだろう?
民を苦しみや死から遠ざけ、生命を育む≺悠久の王>とは真逆の存在である≺冥王>が不仲というわけではないが、どの時代でも【陰と陽】が親しかった記録は残っていない。
五大国の傾向として精霊の国と悠久の国、ヴァンパイアの国と死の国の仲が良く、雷の国は中立であることが多い。
従って、現在第一位と第二位の国が良好な関係であるこの時代は他の国がいくら牙を剥こうとも勝敗は見えており、ましてや≺千年王>であるエクシスがいる限り彼に太刀打ちできる人物は皆無と言える。
もしヴァンパイアから≺千年王>が出ていたらこの世界はまた混沌と化してしまうのだろうか?
そのときの≺悠久の王>がやつらに対抗できる力を持っていることを願わずにいられない。
「私はこの国の未来も考えねばならないが、どうやら今がとても大切らしい」
胸の中のぬくもりを両手で掲げると、彼女のキラキラした瞳が自分を見つめて嬉しそうに細められた。
「きゃあっ」
こちらに手を伸ばしながら楽しそうに笑うアオイを再び抱き寄せると、互いの頬をすり合わせてまた、愛しさに笑みがこぼれる。
「お前が生まれるいつの時代も私が護ると約束しよう」
キュリオの優しい声色はいつもアオイを安心させてくれる。
漠然とした不安が拭えないときがある、この赤子の心境を知る者はここにはいない。
その不安が未来へのものなか、彼女が彼女として生まれる前のものなのかはわからない。
「…………」
しかし彼女はわかっている。
この不安がただごとではないこと。そして――
(……このままではいけない。だけど、いまは……)
大きな愛に包まれて、かつてない安堵感に身をゆだねたアオイがキュリオの衣を強く握ると、優しい腕がその体を強く抱きしめてくれる。
バルコニーの一角にある長椅子へと腰をおろしたキュリオはアオイを胸元へ抱え直して空を仰ぐ。
「不思議なものだな……この星のどこかでこちらを眺めている者がいるかもしれないというのは」
サラサラと流れる銀の髪がアオイの頬を撫で、神秘的な世界へと誘うように輝いている。
(星の数だけ歴史があり、そこに住む者たちの物語がある)
小さな瞬きの中に数多の命が存在していることは知識として知っているが、中にはすでに滅亡してしまった死の星があることも理解している。
(こうして目にしている輝きが遥か昔の栄光であるとはな……)
幾ら速いとわれる光とて、途方もない彼方にある星々の輝きを人の目に届けるまで気の遠くなる年月を要する。
すなわち、キュリオらが目にしているこの輝きは、とうの昔に失われているものも中には存在しているということだ。大小様々な光の中に蒼白く輝く星や無気味な紅色に光るものがある。
(この見上げる星々に助けを求められたとして……これほど離れていては私の力は届くまい)
憂いを秘めた瞳で夜空を見つめるキュリオだったが、ふとあることに気づく。
上も下もわからない謎の空間。恐らくは別々の星にいるであろう五大国をつなぐ不可解な闇。
「我らの国をつなぐあの異空間はもしや……」
あの空間が他の星々と繋がっている可能性は十分にある。
そう考えるといつしか他の星の生命と出会える可能性を考えたが、そんな出来事は聞いたことがない。この五大国が特別なのか、はたまたあの空間の遠い場所で同じように行き来している者たちが存在しているのか?
"――キュリオ、その出会いが必ずしも良いものとは限らない。もしも侵略者であったなら私たちは戦うのみだ"
「……!」
ハッとして目を見開いたキュリオは思わず背もたれから体を起こし辺りを見回す。
「?」
キュリオの動揺が伝わったのか、アオイは目を丸くしてこちらの顔を覗き込んでいる。
「…………」
「どうしたものかな。最近よくセシエル様を感じるときがある。幸せにうつつを抜かしている私への叱咤なのだろな……」
(他を受け入れることは争いを意味する。互いの手を取り合う世界など存在はしないだろう)
『私たちはこの国を第一に考え、他の国がどうなろうと心を砕いてはならない。それが一国を治める王の責務だ』
――迷うことのないセシエルの眼光は揺らぎのない強い意志を感じる。
月夜の晩に眼下の悠久の大地を見つめる彼の横顔を見上げた幼いキュリオは静かに頷いた。
纏う銀色の光が、美しいセシエルの容姿をより一層際立たせ、この神々しい輝きを纏う彼こそが王のさらに上……≺千年王>の領域へと上り詰めていく王であるのだとキュリオは確信に似たものを感じていた――。
<先代>セシエル王の時代で争いが起きたという話は聞いたことがない。
しかし、あの人当たりのよい優しい顔の下には氷のような冷酷さが秘められていることをキュリオは知っていたため、恐れをなした他国の王が手を出してこなかった可能性もある。
この国のためならば躊躇うことなく剣を抜ける人物。<慈悲の王>というその名を戴きに掲げながらも、炎と氷のような激情を合わせもった人物だった。
(他国の王の追随を許さなかったセシエル様の御力を以てすれば、悠久に害をなす王を黙らせることなど造作もなかっただろう。並外れた強さは無益な争いを無くし、桁違いな強さは恐怖さえも与える)
それこそが王の存在理由に繋がるのだとキュリオは考えている。
実力差のほとんどない民同志が争えば収拾がつかなくなるのは目に見えている。恐ろしいのはその中で財を成す者が居れば貧困の民は弱者となってしまい、強者が弱者を支配する世界があっという間にできてしまうということだ。
それを治める絶対的な存在が必要なのだと。
さらに似たような事例のある国がこの五大国にも存在している。
かの国は唯一自国内で争いが起き、それがきっかけで初代王が誕生したことで有名な雷の国だ。
猛者たちを遥かに超越した力によって国を統制し、争いを終わらせた成功例でもあるが、それは敵国から民を護るために誕生した悠久の王とは違うため、初代王の誕生の仕方はひとつではないことがわかる。
(他国から民を護れず、自国の争いをも鎮めることができなかった王がいたとしたら……その国は滅びるのだろうか……)
国の最期があるとしたら、どんな終末が待ち受けているのだろう?
次代の王も誕生せず、やり直しが許されないとしたら……どこかで審判(ジャッジ)を下している者がいるということかもしれない。
「我らの神具を考えれば……やはり神という存在がいるのだろうな」
それを"神具"と呼ぶのはどの国でも同じだが、最初に名付けた王が実際神に会ったか、それとも証明できないこの武器の存在を神の業としてそう呼んだのかもわからない。
だからこそ、歴代の王たちのなかでは神の存在について調べていた形跡がいくつもある。
初代王が誕生したタイミングから考えて、民が壊滅的状況に陥るなどの幾つかの条件をクリアすれば王が誕生するのか、ある一定の力量を超えた者が王となるかは憶測の領域を越えていない。
前者に置いて当て嵌まるのは、恐らく悠久の国と雷の国であり、後者に関してはすべての国に当て嵌まると言えよう。
さらに……現王の力の衰えを見計らって次代の王が誕生するよう、最初から神に操られているとしたら――?
「…………」
その答えを知っているのは神と≺初代王>だけかもしれない。
≺初代王>と面識のある人物が生存しているわけがないこの世界。キュリオは複雑な想いを胸に抱きながら先程よりもわずかに傾いた月をジッと見据える。
「……すべては神の意志ということか……」