【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
<四の女神>セージの忠告
(スカーレットってば、なに書いてたんだろう……)
<六の女神>ミアハの屋敷に呼び出されたシャルトルーズを追って、スカーレットが部屋を飛び出してからはや一時間。罪悪感から、その場を動けずにいたマゼンタは彼女なりに姉の心に寄り添いたいという想いから……とある行動に出た。
「たしか……ここの引き出しに……」
仕事熱心なスカーレットの机はいつも整えられていて綺麗だった。机に向かう機会の少ないマゼンタなどは、もはやそこはドレス置き場と化しており、本来の使い道とはかけ離れてしまっているのだから座る気も起きない。
――ガタタッ、スー……
「これだ……」
目当てのものはすぐにわかった。取り出したレターセットの束は結構な厚みをもっており、およそ数えただけで丁寧に綴られた手紙は数十枚にのぼっていた。
さらに封筒の宛名には序列に関わらず末端の女神たちから<六の女神>に至るまでの名が記されており、手紙の内容は謝罪の言葉と一族の招集を呼びかける旨とが書き連なっている。
「……っ、……」
胸が押しつぶされるような感覚だった。
なんでもない風を装い、すべての責任を負おうとするスカーレットの背に守られ、非難の目に晒されることなく後ろを向き続けていた自分が情けない。
(……私も行かなきゃ! 一緒に謝らならないとっ!!)
両手に抱えたレターセットを強く抱きながら踵を返す。
――タッ!
すっかり日の落ちた室内を駆け出すと、扉のあたりで人影がユラリと動いて悲鳴を上げそうになる。
「きゃっ!?」
「…………」
「だ、だれっ!?」
「……どこへ行くつもり?」
扉の傍にあった影がさらに近づいて。
「……セージ、脅かさないでよ……」
マゼンタがセージと呼んだこの少女はシャルトルーズの双子の妹で、マゼンタのすぐ上の姉の<四の女神>セージだった。
「……スカーレットとシャルが<六の女神>の屋敷にいるの。
きっとウィスタリアが起こした問題の責任とか、長の座を譲れとか……そんなこと言われてると思う」
「先手を打たれてしまったのね」
マゼンタの腕の中のものへ視線を落としたセージは静かに告げる。
「うん……スカーレットは何度もお城に行って謝ろうとしているみたいなんだけど、うまくいってないみたい……」
「ウィスタリアお姉様がしたことは許されなくて当然よ。……それくらいのことをしてしまったのだもの」
「だ……だったらなおさらっ……! スカーレットは何も悪くない! せめて私が謝りにいかなきゃ……」
泣きそうな顔で手紙を抱きしめるマゼンタにセージは熱もなく淡々と告げる。
「ここであなたが出て行って話が鎮まると思う?」
「……それはっ……」
「あなたの気が済まないのかもしれないけれど、感情論でどうにかなるような問題じゃないわ。
苦しくても、いまは言い負かせることのできるシャルお姉様か、皆からの信頼が厚いスカーレットお姉様に矢面に立ってもらうしかないの」
「でも私……、わたしがウィスタリアの背中を押してしまったようなものだからっ……だから<女神>を降りるのは、ウィスタリアだけじゃなくて……!」
自らも<女神>を降りると言いかけた末の妹へ、セージが灰緑色の瞳で静かに忠告する。
「よく聞きなさいマゼンタ。
罪を犯したウィスタリアお姉様は仕方がないけれど、加害者だからとその座を降りるのは責任を投げだしたも同然よ。
だからこそスカーレットお姉様は長にならなくてはいけない。真っ当な信念のあるひとに、人はついてくるものだと覚えておきなさい」
<六の女神>ミアハの屋敷に呼び出されたシャルトルーズを追って、スカーレットが部屋を飛び出してからはや一時間。罪悪感から、その場を動けずにいたマゼンタは彼女なりに姉の心に寄り添いたいという想いから……とある行動に出た。
「たしか……ここの引き出しに……」
仕事熱心なスカーレットの机はいつも整えられていて綺麗だった。机に向かう機会の少ないマゼンタなどは、もはやそこはドレス置き場と化しており、本来の使い道とはかけ離れてしまっているのだから座る気も起きない。
――ガタタッ、スー……
「これだ……」
目当てのものはすぐにわかった。取り出したレターセットの束は結構な厚みをもっており、およそ数えただけで丁寧に綴られた手紙は数十枚にのぼっていた。
さらに封筒の宛名には序列に関わらず末端の女神たちから<六の女神>に至るまでの名が記されており、手紙の内容は謝罪の言葉と一族の招集を呼びかける旨とが書き連なっている。
「……っ、……」
胸が押しつぶされるような感覚だった。
なんでもない風を装い、すべての責任を負おうとするスカーレットの背に守られ、非難の目に晒されることなく後ろを向き続けていた自分が情けない。
(……私も行かなきゃ! 一緒に謝らならないとっ!!)
両手に抱えたレターセットを強く抱きながら踵を返す。
――タッ!
すっかり日の落ちた室内を駆け出すと、扉のあたりで人影がユラリと動いて悲鳴を上げそうになる。
「きゃっ!?」
「…………」
「だ、だれっ!?」
「……どこへ行くつもり?」
扉の傍にあった影がさらに近づいて。
「……セージ、脅かさないでよ……」
マゼンタがセージと呼んだこの少女はシャルトルーズの双子の妹で、マゼンタのすぐ上の姉の<四の女神>セージだった。
「……スカーレットとシャルが<六の女神>の屋敷にいるの。
きっとウィスタリアが起こした問題の責任とか、長の座を譲れとか……そんなこと言われてると思う」
「先手を打たれてしまったのね」
マゼンタの腕の中のものへ視線を落としたセージは静かに告げる。
「うん……スカーレットは何度もお城に行って謝ろうとしているみたいなんだけど、うまくいってないみたい……」
「ウィスタリアお姉様がしたことは許されなくて当然よ。……それくらいのことをしてしまったのだもの」
「だ……だったらなおさらっ……! スカーレットは何も悪くない! せめて私が謝りにいかなきゃ……」
泣きそうな顔で手紙を抱きしめるマゼンタにセージは熱もなく淡々と告げる。
「ここであなたが出て行って話が鎮まると思う?」
「……それはっ……」
「あなたの気が済まないのかもしれないけれど、感情論でどうにかなるような問題じゃないわ。
苦しくても、いまは言い負かせることのできるシャルお姉様か、皆からの信頼が厚いスカーレットお姉様に矢面に立ってもらうしかないの」
「でも私……、わたしがウィスタリアの背中を押してしまったようなものだからっ……だから<女神>を降りるのは、ウィスタリアだけじゃなくて……!」
自らも<女神>を降りると言いかけた末の妹へ、セージが灰緑色の瞳で静かに忠告する。
「よく聞きなさいマゼンタ。
罪を犯したウィスタリアお姉様は仕方がないけれど、加害者だからとその座を降りるのは責任を投げだしたも同然よ。
だからこそスカーレットお姉様は長にならなくてはいけない。真っ当な信念のあるひとに、人はついてくるものだと覚えておきなさい」