【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「ご覧くださいまし姫様っ♪ 可愛いラビットのぬいぐるみですよっ」
「姫様っ! こちらもどうぞ!!」
述べ十数人の侍女や女官らが幼い姫君のために用意したお手製の遊び道具を手に集まってきた。
「おいアレス! 俺たちもなんか作ろうぜ!!」
アオイの周りに群がる女たちに焦ったカイは、彼女の気をすこしでも引きたいがために大慌てで同じ物を用意しようと考えた。
「私はもう作ってあるよ。こうなることが予想出来なかった君のことも想定の範囲なんだから安心してよ」
そういうとアレスが取り出したのは愛らしいラビットと、ほんの少し強面のウルフのぬいぐるみだった。
「な、なんだこれ売り物かっ!? すっげー! あっ! 手入れられるぞ!!」
丁寧に縫われたそれは、仕立屋(ラプティス)のロイに比べれば完全に劣っているものの、幼子が怪我をせぬよう内布の素材や縫いの細かさに至るまで気遣いが施されたあたたかなものだった。
「もちろん私の手作りだよ。ただのぬいぐるみじゃありふれているからね」
カイの手からそれらを取り上げたアレスは左手にふわふわなピンク色のラビットを。そして右手にはやや硬めの毛並みのウルフを装着すると、人だかりの中心に座っているアオイへ近づいて膝をついた。
「こんにちはアオイ様。私とお友達になってくださいませんか?」
アレスは自分の顔の前でラビットを器用に操りながら、さもこの愛らしいラビットがアオイに話掛けているように演じてみせた。
「きゃあっ」
一際瞳を輝かせたアオイは小さな友達を歓迎するようにラビットを抱きしめる。
頬に感じるふわふわな感触。アレスが操るラビットの手が優しく頬を撫でると、嬉しそうに声を上げた姫君は恐らく動物好きであろうと、その光景を見た誰もが予想できた。
「なんて美しい光景なんでしょう……」
「尊いですわ……」
ぬいぐるみを愛でる姫君にうっとりと見惚れている侍女や女官たちは、この日新たな一面を立ち会うことができたことに感激している。
「キュリオ様にもお見せしたいですね! 女官様!!」
「ほんとね……そうだわっ! 私たちで姫様の御様子を書き記して差し上げればよろしくてよっ!!」
「それっ! 名案ですね!!」
「お、俺だって!!」
バタバタと動き出した女官たちを横目に、取り残されたカイはアレスのウルフを取り上げて悪いウルフを演じてみせる。
「はじめましてアオイ姫様! 俺はこわ~いわる~いウルフだぜっ! よろしくな!!」
「……カイ、アオイ様を怖がらせちゃだめだよ」
「きゃはっ」
アレスの叱咤もなんのその。当のアオイは嬉しそうにウルフのことも抱きしめて離さない。
「わんわんっ」
「わんわ……ん? そういやウルフってどんな鳴き声だ?」
おそらく勘違いしているであろう姫君に正しく解こうとするも、ウルフの鳴き声までは聞いたことがないカイが助けを求めるようにアレスを見やる。
「あはっ 姫様、これはウルフ。狼とも言います。鳴き声は……うーん、……」
首を傾げるふたりを真似しながら笑っているアオイはぴょこぴょこと両手を動かす二匹に夢中のようだ。
時に握手でもするように小さな手が手を握り、またあるときは言葉にならない言葉で話しかけている様子が見られた。そのたびにアレスやカイがなんとなく予想しながら言葉を連ねると、満面の笑みで手を叩いて喜ぶ彼女の姿に誰もが心和んで目尻を下げる。
そんな様子を巨大な樹木の枝から見つめている紅の瞳を持つ青年がひとり。
「ちょっと見ない間にデカくなったな。アオイ――」
「姫様っ! こちらもどうぞ!!」
述べ十数人の侍女や女官らが幼い姫君のために用意したお手製の遊び道具を手に集まってきた。
「おいアレス! 俺たちもなんか作ろうぜ!!」
アオイの周りに群がる女たちに焦ったカイは、彼女の気をすこしでも引きたいがために大慌てで同じ物を用意しようと考えた。
「私はもう作ってあるよ。こうなることが予想出来なかった君のことも想定の範囲なんだから安心してよ」
そういうとアレスが取り出したのは愛らしいラビットと、ほんの少し強面のウルフのぬいぐるみだった。
「な、なんだこれ売り物かっ!? すっげー! あっ! 手入れられるぞ!!」
丁寧に縫われたそれは、仕立屋(ラプティス)のロイに比べれば完全に劣っているものの、幼子が怪我をせぬよう内布の素材や縫いの細かさに至るまで気遣いが施されたあたたかなものだった。
「もちろん私の手作りだよ。ただのぬいぐるみじゃありふれているからね」
カイの手からそれらを取り上げたアレスは左手にふわふわなピンク色のラビットを。そして右手にはやや硬めの毛並みのウルフを装着すると、人だかりの中心に座っているアオイへ近づいて膝をついた。
「こんにちはアオイ様。私とお友達になってくださいませんか?」
アレスは自分の顔の前でラビットを器用に操りながら、さもこの愛らしいラビットがアオイに話掛けているように演じてみせた。
「きゃあっ」
一際瞳を輝かせたアオイは小さな友達を歓迎するようにラビットを抱きしめる。
頬に感じるふわふわな感触。アレスが操るラビットの手が優しく頬を撫でると、嬉しそうに声を上げた姫君は恐らく動物好きであろうと、その光景を見た誰もが予想できた。
「なんて美しい光景なんでしょう……」
「尊いですわ……」
ぬいぐるみを愛でる姫君にうっとりと見惚れている侍女や女官たちは、この日新たな一面を立ち会うことができたことに感激している。
「キュリオ様にもお見せしたいですね! 女官様!!」
「ほんとね……そうだわっ! 私たちで姫様の御様子を書き記して差し上げればよろしくてよっ!!」
「それっ! 名案ですね!!」
「お、俺だって!!」
バタバタと動き出した女官たちを横目に、取り残されたカイはアレスのウルフを取り上げて悪いウルフを演じてみせる。
「はじめましてアオイ姫様! 俺はこわ~いわる~いウルフだぜっ! よろしくな!!」
「……カイ、アオイ様を怖がらせちゃだめだよ」
「きゃはっ」
アレスの叱咤もなんのその。当のアオイは嬉しそうにウルフのことも抱きしめて離さない。
「わんわんっ」
「わんわ……ん? そういやウルフってどんな鳴き声だ?」
おそらく勘違いしているであろう姫君に正しく解こうとするも、ウルフの鳴き声までは聞いたことがないカイが助けを求めるようにアレスを見やる。
「あはっ 姫様、これはウルフ。狼とも言います。鳴き声は……うーん、……」
首を傾げるふたりを真似しながら笑っているアオイはぴょこぴょこと両手を動かす二匹に夢中のようだ。
時に握手でもするように小さな手が手を握り、またあるときは言葉にならない言葉で話しかけている様子が見られた。そのたびにアレスやカイがなんとなく予想しながら言葉を連ねると、満面の笑みで手を叩いて喜ぶ彼女の姿に誰もが心和んで目尻を下げる。
そんな様子を巨大な樹木の枝から見つめている紅の瞳を持つ青年がひとり。
「ちょっと見ない間にデカくなったな。アオイ――」