【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「見たことのない花だな」
闇一色の部屋に浮かぶ無数の光の粒子。
足元から吹き上げる微風が、部屋の中心に立つ物腰の柔らかな美しい青年の着物の裾と絹糸のような長い髪を揺らして舞い上がる。
「……九条。いつの間にいらしてたんです?」
さほど驚いた様子もなく華凛な花を手にした青年が肩越しに振り返ると、この空間に溶け込むような全身漆黒の長身の男が音もなく歩いてくるのが見えた。
「お前がこの部屋に入る前からだ」
「相変わらず気配を消すのが上手ですね。
……残念です。貴方なら知っていると思ったのですが……」
青年の手中にある光の玉の中では、突如現れた幼い少女とともにやってきたと思われるガラス細工のように透き通った花弁をもつ花が浮いている。
「安心しろ。私が知らないということはこの世界の物ではないということだ」
<初代王>に仕えていたという九条が知らないということはつまりそういうことだ。
早くもこの花やあの少女がどこから来たのかわからなくなってしまったが、この花がこの世界のものではないというが本当だとすれば、九条の言う"安心しろ"という言葉に簡単に頷くわけにもいかない。
「……安心、と言っていいのかわかりませんが……」
そう言ったきり、口を閉ざしてしまった仙水。
「どこで手に入れた?」
「…………」
九条の問いかけにも答えない仙水の視線は変わらず手の中の花へと向けられている。
女性とも見紛うほどに美しい彼の横顔が宙を漂う光の粒子に照らされると……その瞳は慈しみの中に悲しみを秘めた暗い色を宿している。
「誰を想っている」
いつにも増して低い声を発した九条にハッと顔を上げた仙水。
「……! 別に私は……」
妙な空気がふたりの間に流れる。
それは諦めの悪い仙水に苛立ちを隠せずにいる九条の心そのものだ。
「お前らまだ言い合っているのか」
威厳に満ち溢れた声と聞き覚えのある金属音が別の方角から響いた。
「貴方まで……」
不協和音を耳にして煩わしいとばかりに眉間に皺を寄せる仙水。
この場に似つかわしくない金属音は、声の主が纏う巨大な鎧の奏でるものであることを仙水と九条は知っている。
「よそ者が深層部まで立ち入るのはあまりいい気はしません。お引き取り願えますか?」
綺麗な顔で毒を吐く仙水に、百戦錬磨の猛者のような出で立ちの王はふたりの傍までやってくると、剛腕を組みながら不動の明王のように立ちはだかる。
「俺がこの場に足を踏み入れられるのはこの城の創造主に受け入れられている証だろう」
「現主の私が貴方を拒んでいるんです。呼ばれてもいないのによく顔を見せられると……その無神経さに心底感心致します」
常人ならば立ち直れないほどに大ダメージを受ける言葉だが、彼にそのような挑発は届かない。
「千年王の<雷帝>によって葬られた者の末路がこれだ。いい加減現実を受け入れろ」
この<雷帝>エデンが言う"者"にはふたつの意味が込められている。
ひとつはこの世界そのものであり、もうひとつこそが……仙水が求めて止まない"彼女"だった――。
闇一色の部屋に浮かぶ無数の光の粒子。
足元から吹き上げる微風が、部屋の中心に立つ物腰の柔らかな美しい青年の着物の裾と絹糸のような長い髪を揺らして舞い上がる。
「……九条。いつの間にいらしてたんです?」
さほど驚いた様子もなく華凛な花を手にした青年が肩越しに振り返ると、この空間に溶け込むような全身漆黒の長身の男が音もなく歩いてくるのが見えた。
「お前がこの部屋に入る前からだ」
「相変わらず気配を消すのが上手ですね。
……残念です。貴方なら知っていると思ったのですが……」
青年の手中にある光の玉の中では、突如現れた幼い少女とともにやってきたと思われるガラス細工のように透き通った花弁をもつ花が浮いている。
「安心しろ。私が知らないということはこの世界の物ではないということだ」
<初代王>に仕えていたという九条が知らないということはつまりそういうことだ。
早くもこの花やあの少女がどこから来たのかわからなくなってしまったが、この花がこの世界のものではないというが本当だとすれば、九条の言う"安心しろ"という言葉に簡単に頷くわけにもいかない。
「……安心、と言っていいのかわかりませんが……」
そう言ったきり、口を閉ざしてしまった仙水。
「どこで手に入れた?」
「…………」
九条の問いかけにも答えない仙水の視線は変わらず手の中の花へと向けられている。
女性とも見紛うほどに美しい彼の横顔が宙を漂う光の粒子に照らされると……その瞳は慈しみの中に悲しみを秘めた暗い色を宿している。
「誰を想っている」
いつにも増して低い声を発した九条にハッと顔を上げた仙水。
「……! 別に私は……」
妙な空気がふたりの間に流れる。
それは諦めの悪い仙水に苛立ちを隠せずにいる九条の心そのものだ。
「お前らまだ言い合っているのか」
威厳に満ち溢れた声と聞き覚えのある金属音が別の方角から響いた。
「貴方まで……」
不協和音を耳にして煩わしいとばかりに眉間に皺を寄せる仙水。
この場に似つかわしくない金属音は、声の主が纏う巨大な鎧の奏でるものであることを仙水と九条は知っている。
「よそ者が深層部まで立ち入るのはあまりいい気はしません。お引き取り願えますか?」
綺麗な顔で毒を吐く仙水に、百戦錬磨の猛者のような出で立ちの王はふたりの傍までやってくると、剛腕を組みながら不動の明王のように立ちはだかる。
「俺がこの場に足を踏み入れられるのはこの城の創造主に受け入れられている証だろう」
「現主の私が貴方を拒んでいるんです。呼ばれてもいないのによく顔を見せられると……その無神経さに心底感心致します」
常人ならば立ち直れないほどに大ダメージを受ける言葉だが、彼にそのような挑発は届かない。
「千年王の<雷帝>によって葬られた者の末路がこれだ。いい加減現実を受け入れろ」
この<雷帝>エデンが言う"者"にはふたつの意味が込められている。
ひとつはこの世界そのものであり、もうひとつこそが……仙水が求めて止まない"彼女"だった――。