【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「キュリオ様、御食事はどちらでお召し上がりになられますか?」
「……湯浴みが先だな。食事は私の部屋へ頼む」
ダルドと別れたキュリオとアオイの後ろを女官と侍女らがついて来る。
颯爽と歩くキュリオの銀髪がサラサラと流れ、その上方では彼に抱かれた幼子が王の肩口からひょっこり顔を出し、後ろを行く彼女らに愛らしく笑いかけている。
「畏まりました。明日の御予定はお決まりですか?」
「明日はアオイも連れて行こうと思っている。世話をする侍女を数名、夜明けと共に出発させてくれ」
「承知致しました。直ちに手配いたします」
アオイに笑顔に癒されて、顔が緩んでいる侍女らへ女官が視線で合図すると彼女らは顔を引き締めて頷き、散々になっていく。
長い階段を終え、一際豪華な最上階へと辿り着いたキュリオは月明りの差し込むバルコニーで足を止めた。
腕の中のアオイへと目を向けると、同じくして月から視線を外した彼女を視線が絡む。
「お前とこれほど長く離れていた日はなかった。今日という一日をアオイが何を見て何を感じていたか……私に教えてくれるかい?」
「……?」
すべてを見透かすような空色の瞳が、アオイの心を覗き込むように真っ直ぐ降りてくる。
まるで「なぁに?」とでも問いかけるようにアオイが小首を傾げてこちらの瞳を覗き込んでくる。
「ああ、すこし言葉が長かったね。アオイ、今日も楽しい一日だったかい?」
その表情が一瞬でも陰ることはないか?
"水の間"での出来事をアオイの記憶から遠ざけるように。楽しいことを思い出させようとキュリオは言葉に気をつけながら語り掛ける。
「へへっ」
理解できたらしいアオイの顔は花が咲いたようにパッとほころんで。
「わんわんっ」
大切そうに抱きしめていた両手の中からアレスが作ってくれたぬいぐるみをキュリオの顔の傍まで持ち上げる。
「これは……ウルフとラビット?」
大きく頷いて再び胸に抱いたアオイはよほど気に入ったようだ。
「お前が私を想ってくれる時間が減ったのはそういうことだったか……」
独り言のように呟いたキュリオ。
アオイの寂しさが紛れたというのは嬉しいことだが、ぬいぐるみへ嫉妬の感情を抱くなど、アオイがいなければ生涯縁のないことだっただろう。
キュリオの目に映るふたつのぬいぐるみ。それらはかなり繊細に作られていたことから、裁縫の得意な侍女が作ったのかとキュリオは思ったが、のちに差し出された女官の報告書によってそれがアレスのお手製だと知り……嫉妬の矛先がややアレスに向いたのは言うまでもない。
「……?」
キュリオの言葉に反応して首を傾げるアオイの頬を撫でながら、形のよい唇に弧を描いて語り掛ける。
「ああ、こうして私の腕の中へ戻って来るのならすこしの冒険は許そう」
この後、湯殿へぬいぐるみを持っていこうとするアオイと、それを阻止しようとするキュリオの攻防が部屋で待機する女官らの耳に入り……この微笑ましいやりとりは忽(たちま)ちに城を駆け巡って皆の知るところとなるのだった――。
「……湯浴みが先だな。食事は私の部屋へ頼む」
ダルドと別れたキュリオとアオイの後ろを女官と侍女らがついて来る。
颯爽と歩くキュリオの銀髪がサラサラと流れ、その上方では彼に抱かれた幼子が王の肩口からひょっこり顔を出し、後ろを行く彼女らに愛らしく笑いかけている。
「畏まりました。明日の御予定はお決まりですか?」
「明日はアオイも連れて行こうと思っている。世話をする侍女を数名、夜明けと共に出発させてくれ」
「承知致しました。直ちに手配いたします」
アオイに笑顔に癒されて、顔が緩んでいる侍女らへ女官が視線で合図すると彼女らは顔を引き締めて頷き、散々になっていく。
長い階段を終え、一際豪華な最上階へと辿り着いたキュリオは月明りの差し込むバルコニーで足を止めた。
腕の中のアオイへと目を向けると、同じくして月から視線を外した彼女を視線が絡む。
「お前とこれほど長く離れていた日はなかった。今日という一日をアオイが何を見て何を感じていたか……私に教えてくれるかい?」
「……?」
すべてを見透かすような空色の瞳が、アオイの心を覗き込むように真っ直ぐ降りてくる。
まるで「なぁに?」とでも問いかけるようにアオイが小首を傾げてこちらの瞳を覗き込んでくる。
「ああ、すこし言葉が長かったね。アオイ、今日も楽しい一日だったかい?」
その表情が一瞬でも陰ることはないか?
"水の間"での出来事をアオイの記憶から遠ざけるように。楽しいことを思い出させようとキュリオは言葉に気をつけながら語り掛ける。
「へへっ」
理解できたらしいアオイの顔は花が咲いたようにパッとほころんで。
「わんわんっ」
大切そうに抱きしめていた両手の中からアレスが作ってくれたぬいぐるみをキュリオの顔の傍まで持ち上げる。
「これは……ウルフとラビット?」
大きく頷いて再び胸に抱いたアオイはよほど気に入ったようだ。
「お前が私を想ってくれる時間が減ったのはそういうことだったか……」
独り言のように呟いたキュリオ。
アオイの寂しさが紛れたというのは嬉しいことだが、ぬいぐるみへ嫉妬の感情を抱くなど、アオイがいなければ生涯縁のないことだっただろう。
キュリオの目に映るふたつのぬいぐるみ。それらはかなり繊細に作られていたことから、裁縫の得意な侍女が作ったのかとキュリオは思ったが、のちに差し出された女官の報告書によってそれがアレスのお手製だと知り……嫉妬の矛先がややアレスに向いたのは言うまでもない。
「……?」
キュリオの言葉に反応して首を傾げるアオイの頬を撫でながら、形のよい唇に弧を描いて語り掛ける。
「ああ、こうして私の腕の中へ戻って来るのならすこしの冒険は許そう」
この後、湯殿へぬいぐるみを持っていこうとするアオイと、それを阻止しようとするキュリオの攻防が部屋で待機する女官らの耳に入り……この微笑ましいやりとりは忽(たちま)ちに城を駆け巡って皆の知るところとなるのだった――。