†皇帝-emperor-†《Ⅰ》



——…静まりつつある怒りとともに、俺の脚は歩みを進める。目的地など決まってなどいないけど。


歩みはしっかりとしていた。


自然と俺はある場所へと向かっていた。


久しぶりだったけど、記憶ってのはハッキリしていてしばらく歩くと見慣れた景色が視界に映った。


名前すら覚えていないくせに、小さい頃に何かあると決まって足を運んでいた”とある公園”しばらく来ない間に錆びていたはずのブランコは錆び一つない新しいモノに変えられていた。


それだけ、時がたったのかすら曖昧だがひどく懐かしく感じた。


久しぶりに足を運んだ公園は幼いころの記憶とは大分違う印象を受けたが、居心地の良さだけは変わっていなかった。


幼い頃は、よくここに来ていた。


確か、反対側にも入口があってそこには自転車でパンを売りに来ていたおじさんがいたなあ。


んで、そのパンが大好きだった俺は毎日のように買いに行ってたような。


(……懐かしいな。)


あの、おじさん今も元気にしてんのかな?


気付けば、足はさっき入ってきた入り口とは反対側にある方の入口へと向かっていた。


こんな時間に、居る筈もないのにな。


案の定、無意識とはいえ探していた人物は居なかった。


それどころか、探していた筈の反対側の入口は自販機となって姿を変えていた。


なんでも、家が建ったらしい。入口があったはずの場所にはおじさんが自転車を押して入ってきていた入り口はコンクリートでできた塀になっていた。


その前に赤い自販機がポツンとおいてあった。


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