†皇帝-emperor-†《Ⅰ》



——…妙な体制のまま女の体を抱き、ベッドに沈むこと30分。


女は歯ぎしりも治まったようで今はすやすやと眠っていた。心地よさそうな眠りに俺は安堵の息を漏らした。


力んでいた手の力も抜け、俺は手をそっと解き本格的に女を自分のほうに抱き寄せた。さっきは無我夢中で特に気にしていなかったが、女は抱き上げた時同様に異常な程に痩せていた。


不眠症らしい俺に心配されるってのはだいぶ異常だと思う。いつもとは違い自分が心配する側に回るというのは違和感を感じたが新鮮だった。


女の吐息に耳を傾けていると自然と心が安らいだ。久しぶりにこんな穏やかな気持ちで夜を迎えた。


腕の中の女はやはり不思議な奴で、睡眠薬を飲んでやっと落ち着いた眠りに付けるはずの俺がコイツを抱いているだけで眠気を誘われていた。


俺はそのまま自然と意識を手放していた。



いつぶりだろうか。薬を使わずに眠りについたのは——。

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