†皇帝-emperor-†《Ⅰ》
そして俺はこの時、初めて自分の父親の事を知った。
姿すら見たことのない父親は一体、どんな人物だったのだろうか。
俺に俺の知らない両親の話をした男。
スーツに身を包んだその男は湯往(ゆおう)と言うらしい。
湯往が言うには、
俺の父親——松雪魅碌(まつゆき みろく)は世界でも名だたるの資産家の息子で松雪グループの跡取りだったとか。
そんな父が親との縁を切ってまで選んだのが——俺の母親だった。
当時、その話を知っていた人が皆一様に母との関係をよく思っていなかったらしく父はとうとう家を出たとか。
それから父と母の新しい生活は始まり俺が生まれ、家族3人で静かに暮らしていたらしい。
だが、その暮らしも父の死で終止符を打った。
松雪魅碌の父、つまり俺の祖父に当たる人はこの時はまだ俺の父の死を知らなかった。
祖父がそれを知ったのは母が、精神科に通っているのを知ってからだったとか。
俺に暴力を振るうようになったあの人だってもちろん、初めからそんな事をする様な人ではなかった。
幼い頃はちゃんと優しく大切に扱われていた俺。
俺が暴力を受け始めた時期と母が精神科に通い始めた時期はピッタリと一致していた。
この話はこの時とその後もう一度、湯往から繰り返し聞かされた。と、言うのも当時7歳の俺にはこんな話理解できるわけもなかったからだ。
俺がその話を改めて受けたのは中学に上がると同時だった。その時に初めて優しかったはずの母が俺に暴力を振るワケを知った。
俺に暴力を振るっていたあの人は、産まなきゃ良かったと罵ったあの人は、いつの間にか——…、心が壊れていた。