不機嫌なキスしか知らない
「ごめんね」
切なげな表情でそう言った紘に、私まで泣きそうになった。
……違うのに。
紘とキスしてるのは、私の意思なのに。
逃げようと思えばいつだって逃げられた。
嫌だって言えば、紘はきっとやめてくれた。
それでも紘とキスしてると、何も考えられなくなるから。
紘で頭の中いっぱいになるから。
だから私、最低だってわかってるのに、紘を拒否できないんだよ──。
「……紗和は何も悪くないよ」
私を抱きしめて、耳元で囁く紘の言葉が、毒みたいに私の脳を溶かす。
ああ、だめだ。
わかってるのに、だめなのに。
──それでももう、きみが必要だ。