不機嫌なキスしか知らない
「いってらっしゃい、圭太」
「あ……頑張ろうな、紗和!」
「あは、私たち敵同士じゃん」
きっと圭太は菫ちゃんと2人きりになりたいだろうと思って、ふたりに手を振って背を向ける。
圭太は口パクで「ありがとう」なんて笑ってくれるから、余計に胸が痛い。
……いいなぁ、圭太にあんなに嬉しそうにしてもらえて。
いいなぁ、圭太に好きになってもらえて。
私はずっと、そこに行きたかった。
圭太の隣で、可愛く笑えるそこに。
少し振り返ってみたら、ふたりが楽しそうに笑っていて。
短髪の圭太の筋肉のある後ろ姿と、ポニーテールの華奢な菫ちゃんの後ろ姿は、並ぶとすごくお似合いで。
じわりと浮かんだ涙で視界がぼやける。