不機嫌なキスしか知らない
「え……」
驚いて振り返ったそこには、いつも通りの不機嫌な顔で、私の青いハチマキを持っている紘。
「なに、返してよ」
「なあ、紗和借りていー?」
私の言葉はまるで無視して、杏奈に向かって私を指さす紘。
紘がそんな質問をするから、杏奈は驚いている。驚きながらも頷いたのを確認して、紘は私の腕を引いた。
「ねえ、どこ行くの」
「人のいないとこ」
ずんずん進む紘は、私の話なんて聞いてくれない。私の表情なんて気にしてくれない。
……でもそのくらいの強引さが、私には心地よかった。
このままずっと引っ張って、余計なこと考えられなくしてくれたらいいのに。