不機嫌なキスしか知らない
「──なあ、慰めてよ」
机に座った藍沢くんが、熱っぽい目で私の目を見る。
思わず視線を外した私に、逃さない、とでも言うように、私の手に彼の手が触れる。
驚いて顔をあげたら、また視線が絡む。
不機嫌な表情。なのに優しく触れる手。
「俺も慰めてあげる」
だめだ、逃げられない。
吸い込まれそうな瞳。
1ミリも動けなくなったのは、藍沢くんの魔法か、それとも毒か。
ゆっくり近付く綺麗な顔に、伏せた瞳、長い睫毛が陶器みたいな肌に落とす影に、ただ見惚れていた。