不機嫌なキスしか知らない



圭太の「代わり」が紘だったんじゃない。

麗奈先輩の「代わり」が、私だったんだ。



だって私の中では、紘は紘だった。


圭太の代わりだなんて、思ったことないよ──……。




だけど紘にとって私は、麗奈先輩の代わり。


本命の彼氏がいる麗奈先輩に苦しんでいた時に、ちょうど私と出会って。

それで同じように苦しい恋をしていた私が、たまたま選ばれただけだ。




なんだか己惚れていたかもしれない。

紘が優しいのは私にだけじゃない。
紘にとって私が特別だからキスするわけじゃない。


そんな当たり前のことを忘れてしまっていた。



そう思ったら泣きそうになって、「すみません、用事があるので……」と、麗奈先輩に背を向けて家に帰った。






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