不機嫌なキスしか知らない
『……そりゃあ、10年以上も好きだったんだから、仕方ないだろ』
「っ、でも、悲しい訳じゃ、なくて」
電話口で突然泣かれたら、迷惑だろう。
紘ってそういう面倒くさい女とか、嫌いそうだし。
そう思って、涙を止めようとすればするほど、止まらなくなっていく。
「ごめん、待って……」
『いや、別にいーって』
紘は私が落ち着くまで、黙って待っていてくれた。
電話越しなのに、遠くにいるのに。
まるで紘が隣に座って、頭を撫でてくれているみたいだった。