不機嫌なキスしか知らない
「来るの早くね?」
「ひ、紘こそ早いじゃん」
紘が20分も前に来るなんて思ってなかった。
紘も眠れなかったのかな、なんて、そんなわけないか。
「なに?楽しみで眠れなかった?」
「っ、それは紘でしょ~!?」
「はは、ちげーよ」
そんな話をしながらも、同時に歩き出す。
少しだけ前を歩く紘。
その微妙な距離感がやけに恥ずかしくて、視線を泳がせる。
「……いいじゃん、私服」
少し前を歩いたまま。
後ろを振り返らない、表情の見えないまま。
そう呟いた紘に、さっきからうるさい心臓がより激しく鳴る。