不機嫌なキスしか知らない
「あ、入館料いくらだった?」
「いーよ、失恋祝い」
「祝うことじゃないし……」
なんて言いつつも、奢ってくれるから紘は優しい。
きっと今の揶揄い口調だって、私に気を遣わせないためだと思う。
圭太と水族館に来たのは、中学生の時だ。
親から水族館のチケットをもらって、圭太を誘って来た。
圭太はデートなんて少しも思っていなくて、サメを見て、イルカショーを見て、子供みたいにはしゃいでいた。
色気のかけらもなかったけど、そんな可愛い圭太が好きだった。