不機嫌なキスしか知らない



水族館特有の暗い通路を通りながら、そんなことを考えていると。



「誰のこと考えてる?」



いつのまにか隣にいた紘が、私の顔を覗き込む。



「……圭太」

「あ、そ」

「圭太と来たときは、こんなデートみたいな感じじゃなかったから、緊張する」



私の言葉に少し驚いた顔をした紘は、少し目を細めて笑った。



「じゃあいいや」



そのまま、さりげなく。
なんでもないことみたいに、紘が私の手を握ったから。


びっくりして少し前を歩く紘を見つめるけれど、紘は振り向いてくれなかった。




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