不機嫌なキスしか知らない


圭太が好きだって言ってたバンド。

だから私もCDを借りて聴いたり、一緒にライブに行ってみたりした。


それでも圭太が私を好きになってくれることはなかったけれど。


明るい恋の歌ばかり歌うそのバンドは、爽やかに笑う圭太によく似合っていた。


私はその隣で、恋ってそんなに楽しいものじゃないじゃないか、なんて心の中で捻くれていたっけ。



「ふーん、これ?」



紘はいつの間に検索していたのか、スマホのミュージックアプリでそのバンドの曲一覧を見せる。



「その3番目の曲が圭太の1番好きな曲だったんだ……」



そう呟く私に、はい、と渡されたワイヤレスイヤホンの片方。

流されるようにそれを受け取って、右耳につける。

紘はもう片方のイヤホンを左耳につけて、スマホをタップした。


< 230 / 275 >

この作品をシェア

pagetop