不機嫌なキスしか知らない
圭太が好きだって言ってたバンド。
だから私もCDを借りて聴いたり、一緒にライブに行ってみたりした。
それでも圭太が私を好きになってくれることはなかったけれど。
明るい恋の歌ばかり歌うそのバンドは、爽やかに笑う圭太によく似合っていた。
私はその隣で、恋ってそんなに楽しいものじゃないじゃないか、なんて心の中で捻くれていたっけ。
「ふーん、これ?」
紘はいつの間に検索していたのか、スマホのミュージックアプリでそのバンドの曲一覧を見せる。
「その3番目の曲が圭太の1番好きな曲だったんだ……」
そう呟く私に、はい、と渡されたワイヤレスイヤホンの片方。
流されるようにそれを受け取って、右耳につける。
紘はもう片方のイヤホンを左耳につけて、スマホをタップした。