不機嫌なキスしか知らない
「いつもありがとな!紗和に大丈夫って言われると大丈夫な気がして頑張れるわ」
無邪気な笑顔が、私を刺す。
「っ、もう、感謝してよねー」
……そんなこと言われてしまったら、なにも言えないよ。
冗談みたいに笑って、圭太の背中を軽く叩いて、その背中を見つめて泣きそうになる。
しっかりアイロンのかかった白いワイシャツ。ダークブラウンの短めの髪の、可愛い襟足。サッカー部のトレーニングで鍛えたがっしりした肩。
──ずっと、好きだった。
何度手を伸ばそうとしても、冗談みたいに誤魔化すことでしか触れることができなかった。
何も伝える勇気がなかったから、圭太はもう私のものにならない。
全部、私が弱虫なせいだ。