不機嫌なキスしか知らない
あまりにも顔の近い藍沢くんを睨もうと振り返ったら、スッと離れた体。
さっさと自分の席に座ってしまった藍沢くんに、なんだか誤魔化された気持ちになる。
「……紗和、藍沢くんと仲良いんだっけ?」
杏奈が不思議そうな顔をして私を見つめているのに気付き、ハッとした。
「そんなことないよ」と笑って首を振る。
……仲が良いわけじゃない。
「藍沢くんはやめときなよー、紗和。
クズって噂だし」
「いやいや、そういうのじゃないから」
「だったらいいけど……」
まだ府に落ちない顔をしている杏奈に、少しだけ声を潜める。
「……クズって噂、本当なのかな?」
杏奈は「やっぱり気になるんじゃん」と呆れた顔をしてから、小さな声で続けた。