不機嫌なキスしか知らない
戸惑っている私に、白々しく「どうしたの?」なんて聞いてくる。
その形の綺麗な唇に、昨日のキスを思い出してしまって。
「っ、」
急に恥ずかしくなって、目を逸らした。
「なに、何か変なこと考えた?」
赤くなった私に、にやりと笑う藍沢くん。
この人絶対、全部わかってる。
全部わかって、私のこと面白がってる。
むかつく、と思いながらもまんまとその罠にはまってしまう自分が憎い。
「別に、なにも考えてないけど!」
ふん、と藍沢くんから顔を背けて、椅子に座る。
「ていうか、藍沢くん、」
なんで席替わったの、って聞こうとした瞬間。
「──紘、」
藍沢くんの声が、それを遮った。
「え?」
「紘って呼べよ」
え、と声を漏らしたけれど、藍沢くんは何も言わずに私の目を見る。
その引き込まれるような目で見つめるの、やめてよ。