不機嫌なキスしか知らない
「ほら、はやく」
やめてほしい。その目で見られると、操られたみたいに、自分が自分じゃなくなるから。
「……ひろ」
「ん?」
「紘、」
藍沢くん、じゃなくて紘は、私の言葉に満足げに口角を上げる。
「よくできました」
余裕たっぷりの目線で見つめられて、きゅう、と胸の奥が締め付けられた。
ずるい、だから、その目で見ないでってば。
「あれ、紘いちばん後ろの席じゃなかった?替わったの?」
紘とよく一緒にいる木村くんが驚いたように紘の席に来た。
「んー、紗和の隣がいーから」
何でもないことみたいに、さらっと爆弾発言をする。
私のことを指差してそう答えた紘に、木村くんも驚いた顔をしている。