不機嫌なキスしか知らない
・
・
・
「あ、教科書忘れた。見せて」
ホームルームの次は数学。
教科書とノートを出して準備していると、突然、ガタンとくっついた私の机と紘の机。
私の返事なんて聞くまでもなく、ぴったり並んでいるふたつの机。
驚いて隣を見ると、気怠げな紘。
「いい、けど」
断るわけにもいかなくて、机と机の間に教科書を広げる。なにこれ、近い。
肩が触れてしまいそうなくらい近い距離に、右隣に意識が集中する。
「始めるぞー」
チャイムと同時に入ってきた先生が授業を始めるけれど、私は全然集中できない。
紘は眠そうに椅子に深く座って、シャーペンも持たずにぼーっとしている。
私は先生の板書を慌ててノートに移すけれど、少しも頭になんか入っていない。
それよりも、紘の吐息が聞こえることとか。紘の香水の匂いがすることとか。
そういうことに意識がいってしまって、そんな煩悩を取り払うようにノートを取っているだけだ。