不機嫌なキスしか知らない
突然、紘が教科書をめくるふりをして私の手に触れる。
「っ、」
あまりに驚いてぴく、と反応してしまった私に、紘はにやりと満足げに笑う。
教科書の上に置いた私の手と、紘の手。
紘の手が触れるか触れないかくらいのところにあって、ドキンドキンと心臓が跳ねる。
紘は、黒板の方を見たまま、手だけをゆっくり動かす。
優しく触れた手、そっと絡まる指。
ぎゅう、と胸の奥が熱くなって、指先がジンジンする。
授業中なのに、他の人はみんな真面目に授業受けてるのに。
教科書を見せるために机をくっつけているから、不自然じゃない。
席もそんなに前じゃないから、先生からも見えない。だけど。
机の上で絡まった指は、どう考えたっておかしい。