不機嫌なキスしか知らない






「あ、圭太」



放課後。帰ろうと思って上靴からローファーに履き替えていると、下駄箱で圭太に会った。



「おー、紗和じゃん。今帰り?」



雑にローファーを床に落として、圭太も靴を履き替える。

どうせ帰る場所は隣同士なので、なにも言わなくても自然にふたり並んで歩く。




「圭太、今日部活休みなんだっけ?」

「うん、顧問が用事あるらしくて珍しく休みになった」

「あはは、そんなことあるんだ」



他愛のない会話をしながら圭太の隣を歩く時間が、いちばん好きだ。



「……あ、妹尾さん!」




と、圭太がぱあっと嬉しそうな顔をして手を振る。少し遠くにいたのは、圭太の大好きな菫ちゃん。


菫ちゃんは少し驚いたように固まってから、ふわりと花が咲いたように笑って、手を振り返している。




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