不機嫌なキスしか知らない
……あんなに遠くにいるのに、妹尾さんだって気付くんだ。
そんなに、嬉しそうな顔で手を振るんだ。
そう思ったら急に、さっきまで幸せだった気持ちが地に落ちた気がする。
──ねえ、圭太、こっち向いてよ。
さっきまで私と喋ってたのに、妹尾さんのことしか目に入ってないんでしょう。
向こうばかり見ている圭太の横顔を見上げて、泣きそうになる。
これから何回、この気持ちを味わうことになるんだろう。
今まで圭太が私にそんな目を向けてくれたことなんて一度もなかった。
『──俺、好きな人できたかも』
圭太に初めてそう打ち上げられた日のことを今でも鮮明に思い出す。
高校2年生になって、クラス替えをして1ヶ月くらい経った日だったと思う。
いつも通り圭太の家でテレビゲームをしていた私は、驚いてコントローラーを落とした。