不機嫌なキスしか知らない
「紗和、ばいばい」
突然、そんな言葉とともに、ぐっと引き寄せられた身体に思わずよろける。
ふわりと香水の匂いに包まれて、驚いて見上げる。
「ひ、紘」
私を後ろから抱きしめるようにして、耳元でにっこり笑う紘。
この人のパーソナルスペースはどうなってるの?
「やめてよ、こんなところで」
「ふたりきりだったらいいの?」
「いいわけないから!」
ぎゅう、と抱きしめる力を強くした紘を無理やり引き剥がす。
下校しようとしていた生徒はたくさんいたから、「あの子が藍沢くんの遊び相手?」なんてザワザワしている。
しかも圭太に見られたし、最悪!
圭太も驚いた顔をして私と紘を見つめている。私のこと見てって思ったけど、こんな時に見てくれなくてもいいのに。