不機嫌なキスしか知らない




「──まあ否定はできないけど」



ふっと頬を緩めた紘。
これがきっと、彼の素の表情。


そう思ったら、本当の紘に少しだけ触れたみたいで、なんだか温かいものが心から溢れてきた。



ああ、だめなのに。


本当の紘のこと、何も知らないのに。
何考えてるか、全然わからないのに。


きみのキスしか知らないのに。


なのにどうして、こんな気持ちになるんだろう。




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