不機嫌なキスしか知らない
「あれ、紗和?」
私の家の近くを歩いている時。
突然声をかけられて、驚いてふたりでそちらを向く。
「圭太!」
私の家の近くってことは、圭太の家の近くでもあるわけで。
部活が終わって家に帰っていたらしい圭太は、コンビニにでもいくのか、財布とスマホだけ持って家の方から歩いてきた。
「……紗和、また藍沢と」
私の隣にいる紘を見て、圭太は少し顔をしかめる。
心配そうな顔をする圭太に、何か言おうとしたら。
少し前を歩いていた紘が、ぐい、と私の肩を寄せた。
急に密着する体と、強くなる紘の香水の匂い。