不機嫌なキスしか知らない
伸びてくる手。近付く顔。
その顔が、唇が、どうしてか紘と重なって。
紘の不機嫌な顔、意地悪な唇と重なって。
ドクン、と心臓が跳ねた。
びく、と揺れた肩に、驚いたように圭太が目を見張る。
「え、どうした?」
「っ、なんでも、ない」
───キス、されるのかと思った。
紘に。
圭太とこのくらい近付くことなんて今まで何度だってあったのに。
その度に意識したことなんてなかったのに。
突然頭の中に浮かんできた不機嫌な紘の顔を振り払うように、小さく首を横に振った。