不機嫌なキスしか知らない
意識してるのは私だけ。
何事もなかったように圭太は棚からプリントを1枚取って、私に渡す。
ここにいるのが私じゃなくて菫ちゃんだったら、圭太はどんな顔したんだろう。
「これ、単語テストの問題」
「え!?」
「俺たちのクラスは先週あったから貸してやるよ。紗和は来週だろ?」
「え、助かる!ありがとう!」
テストの問題用紙を受け取って、笑う。
テスト受けた時、私にも見せようって思ってくれたのかな、とか。
私のいない時にも私のこと思い出してくれたのかな、とか。
そんなこと考えてるのが私だけだってこともわかってるけど、どうしたって嬉しくなってしまう。
だから、気のせいだ。さっき浮かんだ紘の顔も、リアルに残っている唇の感触も。
ぜんぶ、気のせい。