不機嫌なキスしか知らない




『よー、紗和?』




最近聴き慣れた紘の声。

いつもよりなんだか低い気がする声が、耳元の1番近くから聞こえて。


なんだか少しだけほっとして、また泣きそうになってしまった。





「……なに、急に」

『いや、別に』




自分から電話をかけてきたくせに話を続ける気がなさそうな紘に、眉をひそめる。

なんなの?本当、気まぐれなやつ。




『……なんかあった?』

「え?」

『元気なくね?』




意外な言葉に、え、と思わず言葉に詰まる。


……なにそれ、そんなの、気付くの?

顔も見えてないし、まだ二言くらいしか喋ってないのに。

それなのに、たった少しの言葉だけで、声だけで、気付いてくれるの?



< 78 / 275 >

この作品をシェア

pagetop