不機嫌なキスしか知らない
『よー、紗和?』
最近聴き慣れた紘の声。
いつもよりなんだか低い気がする声が、耳元の1番近くから聞こえて。
なんだか少しだけほっとして、また泣きそうになってしまった。
「……なに、急に」
『いや、別に』
自分から電話をかけてきたくせに話を続ける気がなさそうな紘に、眉をひそめる。
なんなの?本当、気まぐれなやつ。
『……なんかあった?』
「え?」
『元気なくね?』
意外な言葉に、え、と思わず言葉に詰まる。
……なにそれ、そんなの、気付くの?
顔も見えてないし、まだ二言くらいしか喋ってないのに。
それなのに、たった少しの言葉だけで、声だけで、気付いてくれるの?