不機嫌なキスしか知らない



「……」

『どうした?』




いつになく優しい声に聞こえるのは、これが電話越しだからだろうか。それとも。




「──片想いって辛いね」

『……またアイツ?』

「またって……」

『はいはい、お前は頑張ってるよ』




雑な言葉だけど優しい声に、胸の奥がゆっくり温められていく気がする。



『俺だったらドン引きされそうなメッセージ送らせてやるけど』

「ええ?」

『だって今井が好きなヤツに嫌われたらラッキーじゃん』

「いや、それはさすがに……」

『そう思えるところ、お前の優しいとこなんじゃねーの』




ぶっきらぼうな慰め方に、思わずくすくすと笑ってしまった。

この人は、私の気持ちを救い上げるのが上手だ。



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