わすれられない初恋の話
「寒……」
ホワイトクリスマスではないが、かなり冷え込んでいた。
会社の中が暖かければ暖かいほど、外に出た時に辛い思いをすることになるのだ。
首に巻いたネイビーのマフラーを口元まで引き上げて、ポケットに手を突っ込んだ。
すると、右手が小さい箱に触れる。
給料3ヶ月分には程遠いが、この日の為に用意した特別なプレゼントだ。
この小さな箱に入ったプレゼントを買うのは、あまりにもリスキーだと思った。
というのは、無駄になる確率がとても高いから。
もしかしたらこいつは一生誰にも嵌めてもらうこと無く、破棄されるかもしれない。そう思うと、背伸びしなければならない値段のものを買う気にはとてもなれなかった。
じゃあ別に買う必要なんてないじゃないかと、場違いなジュエリーショップで随分と悩んだ。
それでも最終的に買ってしまったのは、自分の10年越しの決意を、形として残したかったからかもしれない。
どうか、出来ることなら。
この銀色に輝く指輪に、本来の役目を全うさせてあげたい。
指輪の運命を左右するのは、俺じゃない。