わすれられない初恋の話
夕日が差し込む放課後の教室で、俺と菜々は向かい合って座っていた。
菜々が日直だったその日、日誌を書く為に残っていた菜々に、俺がちょっかいをかけに行ったのがきっかけだった。
「沖田ってさ、好きなやついんの?」
「えっ……」
みるみる赤く染まる菜々の顔を見て、これはひょっとしたら脈ありかもしれない、と思った。
俺のほうをチラッと見てから、また思い出したように日誌へと視線を落とす。
だけどペンを持つ手は少し震えていて、日誌には1文字も書いていない。
「く、黒田くんこそどうなの?」
「俺はいるよ」
「……え?」
「好きなやつ。いるよ」
赤く染まったはずの菜々の顔が、次は色をなくしていく。
やっぱり、ひょっとするのかも。
「そ、なんだ。へえ、知らなかったあ。同じクラスの子?」
「沖田」
「ん?なに?」
「だから、おまえ」
「……へ?」
「俺が好きなの、おまえ」
ぽかんと口を開けた菜々の手から、ペンが落ちた。
「で?沖田の好きなやつって誰?」
そう尋ねた瞬間、再び真っ赤になった菜々の目がうるうると滲んだのをよく覚えている。
高校1年生の冬のことだった。