足踏みラバーズ
おまけに、当事者で一番気まずいはずなのに、瑞樹との仲を心配そうにしていた。
始めはなんとなく話題にするのを避けていて、どっちかというと瑞樹の名前を口にするたびに自分が嫉妬してしまって、わざわざ口にするのをやめた。
本来、瑞樹とは仲が良かったし、仲違いするつもりなんて微塵もなかった。
汚いことをしたのはおれなのに、瑞樹も百合子ちゃんも当たり前のように受け入れてくれた。そんな二人を似ているな、と勝手に思って嫉妬して。
極めつけはずぶずぶはまって抜け出せない、と完全に自覚したときだ。
求められるのが大嫌いで、ああしろこうしろ、自分の持っている以上のものをねだられるのが鬱陶しい。
そう思っていた自分が、百合子ちゃんにあれやこれやと求めていたのに気付いた。
——初めて、キスをしてくれたときだった。
キスをすれば、軽く返してくれるし、最初は好きだと言ったら、うーんと返していたのが、今では、あたしもだよ、と笑ってくれる。
けれどまだ、好きだと言葉にしてはくれない。
全く同じことを昔の女にされてうざいと、思っていたはずが、今や自分が同じことを求めてしまっている。もしくは、それ以上かもしれない。
百合子ちゃんに好きだと言われる日がきてほしい。
オウム返しじゃなくて、百合子ちゃんの気持ちが欲しい。
あわよくば、その人生も半分くらいはおれに預けてほしい。願わくば、隣にいるのが、ずっと自分でありたい。
特別な場所を、瑞樹にも、他の誰にも、とられたくない。
朝起きると、いつの間にかベッドに移動していて、蒼佑くんも一緒に寝ていた。
抱え込むように抱き寄せられていて、くっついた部分が少し熱かったけど、休日なのをいいことにそのまま二度寝をしてしまった。
お昼近くに起きた時には、既に蒼佑くんは着替えてリビングでコーヒーを飲んでいて、おはよう、と笑う顔が、とびきり甘い微笑みだった。