足踏みラバーズ
10
初夏を迎え、夏が過ぎ、初秋になると、ほんの少しの変化が訪れた。
28を迎え、30へのカウントダウンが短くなり、蒼佑くんより年上になってしまった。
その期間は短いものだけれど。
相変わらず四つ葉出版のクローバー編集部に在籍し、仕事に精を出している中、人事の異動があった。
今に至るまで、長く部署に貢献してくれた先輩の益子さんが、違う部署に異動になったのだ。
会社員であるからには避けて通れないことだけれど、中島くんがうちの部署に配属してから教育係の先輩として、また仕事ができて頼りになる編集者でもあって、一時クローバー編集部は、他の部署の人からお通夜かと言われるくらい、静かな空気が漂っていた。
異動先では副編集長に昇進するらしいと聞いていたから、決して悪い話ではない。
こちらの勝手な感情だけど、ぽっかりと穴が開いたようだった。
何より、中島くんがわんわん鳴いて縋り付いていて、これから頑張れよ、と言われてからの彼は見違えるような精悍な顔つきになった。
いや、……なったり、なかったり。そのおかげで、女性社員からの評価も上々らしい。
蒼佑くんとの仲は良好で、変わらず家でごろごろしたり、たまにはデートをしたりして過ごしている。
ただ一つ、変わったことは、私の家に来る頻度が減っていた。
足掛け一年、にもならないけれど、明らかに減っている。ほぼ毎日家に居たのが、一日、また一日と減っていて、近頃は、週に2、3回ほどになっていた。
マンネリという表現はしっくりこなくて、その上、奏恵や朱莉、冬子にそれとなく聞いてみたけれど、同棲しているわけでないのなら、「そんなの普通だ、むしろ今までが居すぎでしょ」とか「誰んちよ」とか心配する必要がないみたいで、ちょっとだけ不安が取り除かれた。
もっとも、浮気を疑うなんて、これっぽっちもなくて、ただただ不思議に思っていただけなのだけれど。