足踏みラバーズ
恵美からの一方通行な好意だと疑念を抱いたのは、彼女だと主張するも、その場所は大体ホテル。
大体というのは、恵美の家にも行くことがあるみたいだったから。
私が二人と居酒屋で一緒に過ごした日は、初めてホテルと彼女の家以外の場所で会ったのだと言っていた。
そう呟く瑞樹の顔は死んでいる。
「あれ? ここは?」
「は?」
「瑞樹の家には、来ないの」
「や、俺、他人は部屋にあげたくねえし」
つうかハナから好きじゃないし、と冷たく言い放つ。
「なんで断らなかったの。いつも通り一回だけにしとけば……」
「いろいろあんだよ」
「いろいろって何」
「お前は知らなくていいことだろ」
「なんで」
「うっせえな」
気づいたらこんなやり取りが続いてしまって、それ以上は詳しく教えてくれなかった。それどころか、やっぱり浮気してたんじゃん、と口喧嘩になってしまって、いつの間にか話がすり替わってしまっていた。
気づけば深夜になってしまった。
帰るね、と廊下に放り出されたパンプスを回収して、つま先を滑り込ませる。
「……蒼佑と」
「ん?」
「や、なんでもない」
言いかけた言葉を飲み込んで、遅いからタクシーで帰れよ、とお札を差し出された。近いしいらない、と受け取らずにドアノブに手をかける。
外まで見送ってくれようとしたのか、瑞樹もサンダルに足を入れたけど、それを拒んで一人で出た。
「早く寝れば。目の下、隈すごいよ」
目元を指さして一笑する。
閉まりかけた隙間から、少しだけ微笑んだ瑞樹が見えた。
もう少しでクリスマスだね、とキッチンで食器を洗っていると、蒼佑くんに話しかけられた。
「え、ああ。そうだね、もうそんな時期か」
早いねえ、と呑気に季節の変化を感じていた。
瑞樹の家に、黙って行ったことをどうしても隠しておけなくて、蒼佑くんに意を決して打ち明けた。
怒られるかも、呆れられるかも、最悪ふられるかも、と覚悟していたけれど、意に介さない様子で「知ってるよ」と言われたときには、下げていた頭をすぐに上げた。
彼の表情を見たくて、視線を向けた。
瑞樹から聞いたからね、と手を休めずにご飯を頬張っていた。なんで言ってくれなかったの、と注文をつけた。
蒼佑くんは、グラスを手にしておもむろに口にした。
「百合子ちゃんが、教えてくれなかったから」