足踏みラバーズ



 ある日、同じクラスの女友達から、蒼佑の彼女みたいな女が一番タチ悪いと思うよ、と口々に言われた。


髪の長い、清楚な感じの女の子のどこがタチ悪いんだ。

目立つタイプの女の子たちがそれを言っていて、違うところに属しているから、美由紀のことを何も知らないんだと言っておいたが、その意味を知る日は遠くなかった。







 もうそろそろ潮時かな、と感じていた頃、彼女のほうから別れを告げられた。


すんなりと応じて去るもの追わずの姿勢を貫いていたが、後日、数日も経たないうちに、他の学校の新しい彼氏ができていた。

ろくに期間も開けず、新しく彼氏ができたということは、おれとつき合っている間に既に唾をつけていたに違いない。

気持ち悪い。おれに向けた笑顔や好意がハリボテのものだと思ったら、反吐が出る。





それからというもの、いい距離を保ってつき合うのがベストだと信じて疑わなかった。

それでも女性との関係を続けていたのは、自分を好きだと言ってくれて、体を重ねていたら尚のこと。その一瞬だけは、愛に溺れることができる。

好意、という感情の中身を知りたかったのかもしれない。










 百合子ちゃんとつき合ってから、瑞樹と少しだけぎこちなくなったときもあったけど、それは本当に短い期間で、すぐに気の置けない関係に戻ることができた。


それと比例して、百合子ちゃんの前では避けていた瑞樹の名前もよく出すようになった。自分では友達の話をするくせに、百合子ちゃんが瑞樹のことを話すのは、少し胸がざわついた。

嫌だと言ったら軽蔑されるのではと不安に感じてしまって、溜めに溜めた嫉妬心が爆発した。









 百合子ちゃんの誕生日を知ったのは、瑞樹の口からだった。



「お前10日誕生日だろ、いいのかよ」



 自分の知らないことを当たり前のように知っている、瑞樹にずるいと嫉妬心が抑えられなかった。

百合子ちゃんにずるしてフライングの告白をして、つき合うように仕向けたのはおれのほうなのに。








 人間は強欲だ。


一度知ったらそれ以上のことを求めてしまう。

瑞樹じゃなくて、おれのことだけを見てほしい。満たしても満たしても満たされない、わがままな愛情のループ。

そんな嫉妬をもやもや抱えているときに悪魔の声が囁いた。





 同窓会のお知らせ

急でアレだけど、東京近郊にいるやつだけでも、集まれる奴らで飲もうぜ!








< 121 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop