足踏みラバーズ
頭を抱えてしゃがみ込む。
当然のように百合子ちゃんの家に帰ろうとしていたけれど、どうにもバツが悪くて、その日は実家に帰ることにした。
百合子ちゃんが結婚式から戻ってきたあとも、毎日のように入り浸っていた家に行く頻度が少なくなった。
百合子ちゃんに、申し訳が立たなくて。それでも百合子ちゃんの家に足が向くのは、やっぱり彼女が好きなのだと思う。
けれど、変わらず彼女はおれに好きとは言ってくれない。
瑞樹から、LINEが送られてきていた。
受信日は、結婚式の前日、同窓会の前日でもあった。
連絡があったことに気づかなくて、同窓会の帰り、おもむろに携帯を見たら、足元の影が伸びている写真だったけど、二人が手を繋いでいるように見えて、写真をアップにしてもスクロールしても、それ以上の情景が見えない。
実際に手を繋いでいたかは、聞いていないからわからない。
けれど、二人の仲に醜い嫉妬を抱いてしまったおれには十分な不安材料だった。
それどころか、それ以降、百合子ちゃんは瑞樹を気にする素振りも見えて、どこにぶつけていいかわからない心の隙間を埋めようと、出来心で縋ってしまったのが始まりだった。
その日をきっかけに彼女と度々連絡をするようになった。
他の友人と同様に他愛もない話程度だったけど、そのうち仕事帰りに飲みに行くこともあった。
最初のうちは共通の友人も一緒に連れて、2人きりの空間を避けるようにしていたのが、回数を重ねるうちに2人きりで飲むようにもなった。
美由紀はおれに彼女がいることを知っていて、飲みに行くとか用件をしっかり当て込んで、気兼ねなく行ける理由をつくるずる賢さが、今のおれには救われるようだった。
美由紀と2人で会った日には、気まずさから百合子ちゃんの家に行かずにいた。
それでもやっぱり会いたいと、次の日には彼女の家に訪れて、その血色のいい口から瑞樹の名前が出るたびにフラストレーションが溜まっていく。
満たされない自分を満たすように、美由紀と会うことも多くなっていった。
美由紀は「女」であることをしっかりと武器にしている。
その計算高さが百合子ちゃんとは程遠くて、2人でいるときだけはずるい自分を受け入れられるような気がしていた。