足踏みラバーズ
彼女と会うようになったのは、自分に好意を寄せているのがわかったからだ。
高校のときよりも身長は伸びたし、今でも可愛いと言われることはあるけれど、丸みがとれて男の子から男の人になったと自負している。
この容姿が気に入ったのかどうかは謎だけど、明らかに自分に媚びているのは見て取れた。
けれど彼女は昔から自分で言葉にせずに、人に言わせようとするところがある。
例えば告白。
態度で好きだというのがありありなのに、決定的なことは男に言わせて、好きじゃなくて好かれている状況をつくるのが上手かった。
思えば、級友の女の子たちも、彼女のこういう部分をタチが悪いと罵っていたのだと理解している。
曲がりなりにもおれは百合子ちゃんとつき合っているし、彼女が好きだ。
だから美由紀には、そんな甘い言葉は囁かない。
それを歯がゆく感じていたのか、昔だったらありえない、美由紀から好きなんだと口にするのがたまらなかった。
駆け引きに、勝ったみたいで。
勝ち負けなんてないのかもしれないけれど、好きになったほうが負けだとはよく言ったもので、百合子ちゃんにこのことを話したことがある。
彼女にしてみたらきっかけを作ってくれたぶん、好きになってくれた人にありがたみを感じる、と恋に溺れるおれには思いつかない返答で、
結局つき合ったらどっこいどっこいだ、なんて親父みたいな言葉のチョイスが可愛くて、つくづくおれは人を見る目があると過去の自分を褒め称えた。
「2番でいいから、会わないなんて言わないで……」
涙を流す彼女にひどく冷ややかな目で見ていた。
お前とつき合っていたのは昔の話だ。
2番とか、百合子ちゃんと同じ土俵に立てていると思っているのがおこがましい。
そうやって元カノを軽蔑したところで、好き、蒼佑以外は考えられない、なんて言葉には簡単にほだされる。
よほど、百合子ちゃんから好きだと言葉にしてもらえなかったことが、堪えていたのかもしれない。
百合子ちゃんは、好きだと言わなければ、キスもエッチも求めてこない。
そんな彼女が最近、瑞樹のことだけは気に掛ける。
おかげで会社の喫煙所で瑞樹と会ったときには、一歩的に苛立って、「なんか今日イライラしてんな」と笑う瑞樹をまっすぐ見られなくて。
長くつき合っていたお前になら、おれに求めてこないことも求めていたんじゃないか、なんて。