足踏みラバーズ
「前にヤッた女につきまとわれてる、みたいな。ちょっとストーカーっぽくて気味悪りぃんだ」
しかも相手、百合子の友達っぽい、と頭を悩ますように、小さな声で呟いた。
誰? と聞くと、返ってきたのは、おれも知ってる人の名前だった。
「倉橋、恵美?」
そうそう、と眉間に皺を寄せて相槌をうつ。
お前も知ってんのか、と言ったのは彼女から友人の話くらい聞いているからだと、思ったのかもしれない。
偶然といえど、おれの彼女と会ったのが気に食わない。
その一瞬で、瑞樹の疲労困憊な様子を見抜いてしまうのも、おれにとっては引っかかる。
なんでそれが、おれに内緒で元カレに会うことになるんだよ。
一言くらい、言ってくれてもいいじゃんか。信用されてないのかと、さらに不安要素が募る。
「そもそも瑞樹が、その倉橋さんと会わなきゃいいだろ。嫌なら切ればいい」
今までみたいに、と皮肉たっぷりに言ってやった。それでも瑞樹はおれも一点に見つめる。
「……あいつが。や、恵美が、会ってくれなかったらわかるよねって、携帯見せてきてさ。写真だったんだけど」
誰のだと思う? と頬杖をついて苦笑いをしていた。そんなの聞かなくてもわかる。……百合子ちゃん、の写真だと。
そうやって大事そうに百合子ちゃんのことを守ろうとして。
絶対あいつに言うなよ、なんてかっこいいヒーローみたいな言葉を口にして。
そんなに真剣な顔をされたら、これ以上瑞樹には何も言えない。