足踏みラバーズ
百合子ちゃんなら、きっとおれに話してくれる。
そう思っていたら、本当に打ち明けてきて、どこまでもバカ正直だな、と思った。
頭を下げて、ごめんなさいと言う百合子ちゃんに知ってる、と答えたら、驚いて口をぽかんと開けていた。
知ってるなら言ってよと言う彼女に、百合子ちゃんが教えてくれなかったから、突き放すような言葉を投げかけた。
強張った身体で、目が泳いでいる、動揺を必死に押し隠しているようだった。
そんな顔、しないでよ。おれに冷たい態度をとられて悩むくらいなら、瑞樹の家なんか行かないで、おれだけ見てよ。
大人というのは時に素直さの枷になる。
このもどかしい想いを口にできなくて、その日は百合子ちゃんを無理やり抱いた。
嫌だと泣き叫ぶところすら、可愛いと思うのはお門違いかもしれない。
心の距離を埋めたくて、身体を重ねる。
物理的に距離を埋めたら満たされるということでもなかったけど、やはり彼女の声は心地いいと思った。
重なった肌が、こんなときでもしっくりくる。
悶々とそんなことを考えていると、襟足を強く引っ張られて、はっとする。
一瞬、美由紀の顔がちらついてしまったからだ。やめろ、お前は出てくるな。
罪悪感に駆られて、少しだけ彼女から視線を外すと、おれの携帯がせわしなく鳴り響いていた。
泣いて流した涙の跡がついている。
あれだけ注意されていたキスマークも、気が済むまでつけた。赤い無数の跡が、おれのものだと主張するように散らばっている。
それをなぞって、ひたすら百合子ちゃんの寝顔を眺めていた。