足踏みラバーズ
人の流れが途切れることがない。始終手を繋いでいたけれど、ふと、ぎゅっと力がこもった。
「蒼佑くん?」
どうしたの、と視線を向けると、その目は私を見ていなかった。
「……美由紀……」
ぽつりと呟く彼の視線の先には、女の子が立っていた。
両手で口元を覆って、目にはいっぱい涙を浮かべて。
ぼろ、っと雨粒みたいに大きな涙が零れると、ひらひらしたスカートを翻して、人の波に逆らって走り出した。
「美由紀!」
込められた力は弱まって、ついには手を振り払われた。
どんくさそうに走る女の子を追いかけて、彼もまた、人の波に逆らって駆けていく。
色を失い、溢れかえった人混みの中でも、彼らだけがカラーに見えた。
細々とした隙間から、女の人が、泣き崩れてへたり込むのが見えていた。
蒼佑くんが、そんな彼女に寄り添って、背中をさすろうとしていたのか、手を伸ばしていたのが見えていた。
私の視線の先は2人を捉えようと必死だったけど、目の焦点が合っていなかった。
呆然と立ち尽くしていると、道行く人に肩がぶつかってしまった。こんなとこで突っ立ってんなよ、と舌打ちが聞こえてきて、すみません、と小さな声でかろうじて謝るのが精一杯だった。
ゆっくり視線を戻してみると、既に2人はイルミネーションとは逆の夜道に消えていて、ただただその場に佇んでいるしかなかった。
どれくらい、時間が経ったのかわからない。
サンタクロースの格好をしたお兄さんとお姉さんに、ケーキいかがですか〜と誘われるがまま小さなホールケーキを購入してしまった。
食べる予定もない、甘くて白い幸せの形。無心で家に帰って、テーブルにそっと置く。
「誰が食べるの、これ……」
自分で買った、まあるいケーキが物悲しく主張する。生クリームが苦手で、コンビニのちょっと高いプリンにのっているくらいの量しか食べられない。
でも、胸やけするくらい貪ってもいいかもしれない。
明日出勤したとき、ちょっとくらいいつもと様子が違っても、ケーキの食べ過ぎでちょっと、といい言い訳に、きっとなる。
テレビも電気もつけていない。
けれど、カーテンを閉めていない窓からほんの少しの月明りが照らしていた。
ここに来るまでよく泣かなかったな、と思うくらい、ぽたぽたとカーペットに染みをつくった。
「美由紀、ってあの子か……」